シーラじいさん見聞録

   

リゲルやオリオン、そして若いシャチが海面で警戒せずに疲れを取れるのはシリウスとペルセウス、そして、カモメのおかげだった。
シャチを襲うものはそうそういないが、今はクラーケンなどシャチの数倍大きいものがいることがわかっていたので、どんなときでも警戒を怠ることはできないのだ。
シリウスとペルセウスは海面の警戒を任されていた。シリウスはオリオンと同じイルカで、ずっとオリオンと行動をとものしてきた。
今回も自分も海底に行かせてほしい。そのための準備もしているからと、リゲルとオリオンに頼んだのだったが、二人はきみは後方を見てくれと言ったのだった。
今の状況ならニンゲンを見つけるのは簡単ではない。何度も海底との往復が必要だ。かなり疲れて戻ってくるだろう。しかも、若いシャチもいる。途中警戒していても、海面で襲われるかもしれない。
それを避けるためにはどうしてもきみらにやってもらう必要があると説得されたのだった。
それで、二人は合わせて後方作戦をすることになった。もちろんカモメたちも常に二人に同行したので、かなり遠い距離まで行くことができた。
だから、オリオンたちが海面に戻ってきたときにはいないこともあったが、そういうときにはカモメが空から警戒したので不安はなかった。
今日オリオンたちが海面に戻ってきたときはちょうどシリウスがいた。
オリオンはシリウスに気づいてうなずいたようだったが、みんな精も根も尽き果てているから何も聞かなかった。
それを見ていたカモメたちはシリウスに聞いた。「オリオンたちはまだニンゲンを見つけていないんだな?」
「まだのようですね。でも、オリオンたちは何も言いませんが、もうすぐ何か動きがあるような気がします」
「いよいよか。もし見つかったらおれたちはどうしたらいいのか?」
「シーラじいさんとベラはかなり南に移動していると思いますよ。あそこで何もなければ」
「こちらに向かっているということか?」
「そうです。シーラじいさんはオリオンとリゲルはニンゲンを見つけると確信しているはずです」
「それなら、アフリカ大陸に向かったほうがいいな」
「そうですね」
「わかった。そこにアントニスたちに連絡する部隊も同行させよう」
「よろしくお願いします」
シリウスは自分の判断をカモメに伝えると、自分たちも油断してはならないと考えてオリオンたちが休んでいる場所を警戒するために動きだした。
オリオンは目を覚ますとすぐに次のことを考えていた。すると、リゲルが近づいてきた。リゲルも同じように気持ちが高ぶっていたのだろう。
「オリオン、体はどうだ?」
「大丈夫だよ。きみのほうは?」
「ちょっと。でも、そんなこと言っておれないよ。きみが岩の奥に入ってくれたので怪物は冷静になってくれた」
「無我夢中だった。向こうも無我夢中で襲ってきたけど」
「相手がきみのことをおぼえていてくれてよかった」
「そうだ。すぐにでも行きたいが、若い者はどうかな?」
二人が振り返ると4頭の若いシャチの姿が見えた。「来たな」二人はうなずきあった。
みんな相当体を痛めているようだ。「おまえたち。やめてもいいぞ」リゲルが言った。「いいえ、行きます」4頭とも答えた。
一人が、「あの怪物は今どうしていますか?」と聞いた。
「もちろんニンゲンを見つけていますよね」別のものが言った。
「そうだと思うが少し心配なことがあるんだ」オリオンが言った。
若いシャチだけでなく、リゲルも驚いたようにオリオンを見た。
「怪物を岩に閉じ込めたものはクラーケンだと思うが、もっと細工をしているかもしれない」
「細工?」
「やつらの意図が分らないのだ。怪物を殺すことはできたと思うが、どうして閉じこめたのだろうか?」
「わざわざ岩を作ってな」
「そうだ。でも、とにかく怪物を外に出すことができた。すでに自分がいた穴に戻っているだろうから、ぼくらもそこに行けば、怪物もニンゲンのこともわかる」
「絶対生きておれたちが来るのを待っていますよ。ニンゲンのことはわからないが」若いシャチが言った。
「そういことだ」
「そろそろ行こうか」リゲルが言った。
その声で、若いシャチたちはリゲルやオリオンよりも早く動きだした。
「いよいよだな」カモメは仲間に言った。「ああ、オリオンたちもよくがんばったよ」
「すぐにシーラじいさんに報告できるように、おれたちもそれぞれの任務の確認をもう一度しておこうじゃないか」
「OK。そうしよう。オリオンたちが上がってきたらすぐに飛び立たなくてはな」

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