仲間

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(123)
「仲間」
「おーい、みんな助けてくれ」という叫びが聞こえました。みんな集まってきました。叫んでいるのは仲間内で仲がよいと評判の夫婦です。
「どうしたんだ!」と口々に聞きました。「みんな忙しいのに申しわけない。以前から家の様子をうかがっていたやつがとうとう家を襲おうとしているんだ」主人が答えました。
「みんな忙しいことはわかっているので、こんなことはしたくなかったのですが」奥さんもうろたえています。
「やつの目の前まで行って警告していたんだが、何の効果もなくて、みんなに頼もうと思って」主人は、もう一度事情を説明しました。
夫婦の話を聞いたリーダーは、「それは困ったな。でも、みんな育児に忙しいときだし。それじゃ、とりあえずみんなに聞いてみようか」と冷静に言いました。
仲間はさらに集まっていました。「おーい。みんな聞いてくれ。仲間が困っている。やつが家まで登ろうとしているんだ。おまえたちもわかるように、もはや家を建て替えるわけにはいかない。
おまえたちも忙しいと思うが、育児が一段落したものは、男だけでもいいから、みんなで仲間を助けようじゃないか」
みんなはうなずきました。「相身互い(あいみたがい)という言葉がある。ずっとというわけにはいかないが、時間が取れるときに加勢するよ」
「でも、ばらばらに行っても、やつらにはこたえない。みんなで同時に行かなければ意味がない」
「そうだ。グループで集まって波状攻撃をしよう」
話し合いの結果、集団で仲間を助けることにしました。
まず、第一団が仲間の家に向かいました。「やつがいるぞ。立てかけてあった梯子(はしご)を上って、そこから家に飛び込もうとするようだな」
「そうなんだ。何回か梯子から飛び移ろうとして失敗したが、いずれ家に飛びつくかもしれない」夫が状況を説明しました。
「まだ卵ですが、今後雛のときに下に落ちたらと思うと心配で」奥さんが泣き声で言いました。
「だんだん上ってきた。それじゃ行くぞ」みんなはピーピーと高い声で鳴きながらそいつのまわりを飛びまわりました。
しかし、驚く様子もなく、ゆっくりと上って行きます。やがて、梯子の頂上に着くと、体を曲げて家に飛び移ろうとしました。そのとき、誰かがそいつの目の前を横切りました。そいつが飛び移ろうとしたのと同時で、それにひるんだのか、そいつはどさっと下に落ちました。
そいつは急いで逃げました。「やったぞ!」歓声が上がりました。「ありがとうございます」夫婦はお礼を言いました。
「でも、また来るかもしれない。そのときは・・・」みんな黙りました。
「そうだ、あいつに頼もう。でも、あいつはいつも寝てばかりいるぐうたらで偏屈者だから引き受けてくれるかどうかわからないが」
とりあえずみんな帰ることにして、提案したものだけが頼みに行きました。やはり寝ています。
「ネコさん、どうです?最近は」
「にゃあ。誰かと思えばツバメじゃないか。おれの調子を知ってどうする?」
「相変わらずですね。初夏の風が気持ちいいので、まずは挨拶をと思いましてね」
「挨拶するのなら、用事でもあるのか」
「お察しが早い。実は・・・」ツバメは旧知のネコに事情を話しました。
「ただとは申しません。空を飛び仲間がいっぱいいますから、なんなりとお申しつけください」
「ヘビが恐いわけじゃないが、ヘビの野郎がおまえたちの卵や雛を狙うのはよくあることだろう?」
「よくあることではありますが、淋しい思いをする仲間もいましてね。とにかく、その気になったらお願いしますよ」
「まあ、考えとておこう」
「ところで、何かご希望がありましたら」
ネコがしぶしぶ言ったところでは、自分が気に入った雌ネコはどうなっているか知りたい。近所のボスネコに追いかけられているという噂を聞いたことがあるがということであった。
ツバメは、「すぐ探します」と飛びさりましたが、ネコは動こうとせず、「おれたちは夜中に動くが、やつらは鳥目だ。できっこない。安請けしやがって。おれもそうだが。あはは」とまた寝てしまいました。
2時間ほど寝て、さっきあんなことを言ったためか、久しぶりに散歩でもしようと、のそりのそりと歩きはじめました。
すると、先ほどツバメの巣を襲うとして赤っ恥をかかされたヘビがいました。気分がむしゃくしゃしていたので、アホずらをしたネコに飛びかかりました。
ネコは驚いてヘビに牙をむきました。それを見たヘビはもう一度飛びつきました。ネコはヘビを咥えて振りまわす。ヘビはネコの体を締めつける。そんな意味のない戦いがはじまりました。
ネコに頼んだツバメは仲間のところに戻りました。しかし、夜は動けないので、誰かに頼まなければなりません。
そこで、別のツバメがフクロウに頼みました。「了解した。しかし、わしはそう機敏に動けない。そうじゃ、こいつらに頼もう」と言って、ホーホーと鳴きました。
やがてコウモリが数匹来ました。事情を聞くと、「それはおもしろそうですね。ちょうど暇を持てあましていたんで、いつでもやりますよ」ということだった。
フクロウは、片目がつぶれた黒い毛のボスネコがよく出没する公園の木で見張ることにしました。
午後11時ごろ、家来数匹を連れたボスネコが来ました。「来たぞ!ホーホー」とフクロウが鳴きました。
それを聞いたコウモリが数百匹集まりました。みんな暇でこんなことになったようです。
探偵の仕事は数日続きました。やがて、ボスネコは、当の雌ネコに嫌われているということが判明しました。
最初に依頼したツバメはネコを訪れました。ネコは足にひどいけがをしていました。「ネコさん、大丈夫ですか。わたしらのために命を張ってくれたんですね」ツバメはねぎらいました。
「何のことだ?」
「いや、ヘビから仲間の家を守るという約束を果たしてくれたんじゃないですか」
「そ、そうだ」ネコはすっかりそのことを忘れていました。
「わたしたちも約束を果たしましたよ。ボスネコが、家来を使ってネコさんが好きなネコにいくらプッシュしても、なびこうとしないことがわかりました。今がチャンスですよ」
「そうか。ありがとう」
ツバメは、「その仲間には無事子供が生まれ、もうすぐここを離れます。また来年お会いしましょう。そのときにはネコさんの子供が生まれていることを楽しみにしています」と言って帰っていきました。
ネコは大きく息を吸い、「世の中、物事は偶然で決まるのか」と思いました。「もっとも、そればかりではないだろうから、少しは自分でやってみよう」と歩く練習をはじめました。

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