シーラじいさん見聞録
みんなは一瞬教授が何を言っているのかわからないという顔で教授を見た。
ようやくマイクが、「オリオンは向こうにいないのですか。昨晩は、まちがいなく向こうにいました。ぼくとジョンはオリオンと話しをして、いや、オリオンに声をかけて帰りましたから」と落ち着いて言った。
「そうだろう。スケジュールもそうなっているし、ぼくも夕方までオリオンとそこにいた。しかし、向こうにいないんだ。ご覧のようにここにもいないだろう?」
「別のイルカはいますか?」
「いる。三頭ともいる」
「何が起きたのだろう?」
「何が起きたからわからないから、きみらを呼んだのだ」教授は少し苛立った。
「教授。お忘れにないていませんか?」ミューラーが言った。
「どういうことだ!」
「夜遅く、そうですね、午後11時ごろ、ラーケから電話があってすぐに大学に来てくれないか言ってきました」
「なんだって!詳しく話してくれ」
「はい。教授が、今からオリオンを北極圏水族館に連れていかなければならないと言っているから、積込みを手伝ってくれということでした」
「まさか!」
「こんなに遅くにかと聞くと、教授の親友である北極圏水族館のノイペルト教授が、オリオンにすぐに会ってみたいそうだが、ぼく一人では無理だからということでした。だから、オリオンのことは教授はご存じだと思っていました」
「昨夜はラーケだけだったのか?」
「そうです。急いで大学に来ると、ラーケ一人でした。教授は?と聞いたのですが、ミューラーが手伝うと言うと、それじゃ、先に水族館に行くと出かけたということでした」
「きみは何かおかしいと思わなかったのか?」
「はい。時間のこともそうでしたが、会いたいのなら、向こうから来たらいいのにと思いましたが、教授がそう言っているからということなので、ぼくはそれ以上何も考えず、オリオンをトラックに運びました」
「言っておくが、ぼくはオリオンについては、誰にも何にも言っていない。もちろん、ノイペルトにも。
オリオンのことはベンから極秘に頼まれているので、そんなことするわけがないじゃないか」教授は怒った。
「とにかく、ラーケに電話をしましょう」マイクがとりなした。
「もちろん、ぼくは、ラーケにも連絡したよ。でも、あいつだけが繋がらないんだ」教授は少し落ち着いた。
「ぼくらがもう一度彼に連絡してみます。それに、彼の家族の連絡先もわかりますから」ミューラーとヨンセンが部屋を出た。
教授とマイク、ジョンは、別のプールに向かった。確かに3頭のイルカがいるだけだった。ニンゲンの様子に何か感じたのが、3頭とも不安そうな目でこちらを見ていた。
ミューラーとヨンセンが部屋に入ってきた。「どうだった?」教授が聞いた。
「両親は出ました。しかし、最近はまったく連絡がないとのことでした。とにかく連絡があれば、すぐにこちらに電話するように言いましたが、向こうも心当りを調べると言ってくれました」
「そうか。それじゃ、みんなで今できることをやろう」教授は、みんなが解決に向かって動き出したことがわかった。
「それから、監視カメラを見たのですが、すでに切られていますね」
「ラーケの仕業だな。それから、オリオンを運んだトラックは大学のものだったかね」
「そうだと思いますが、そこまでは確認していません」
「そうか。それなら、トラックの使用許可証を確認してこよう。それから、ノイペルトにもそれとなく聞いてみる」教授は出ていった。
「ラーケは、オリオンをどうするつもりだろう?まだ研究も出来あがっていないのに」ランセンが誰に言うともなく聞いた。
「施設がないと飼うことはむずかしいのはやつは分かっているはずだ」
「それなら、海に戻したのだろうか」
「まさか。教授がオリオンを大切に扱っているのはよく知っている」
「マイクとジョンに聞くけど」ミューラーが言った。
「何だい?」
「ラーケが、オリオンはものすごい能力があるようだと言っていた。だから、教授はぼくらにオリオンの世話をさせないんだと。きみらはよく知っているだろう?教えてくれ」
マイクとジョンは顔を見合わせた。「確かにオリオンは普通のイルカとちがう。イルカの知能が高いといっても、ぼくらニンゲンのような知能ではないが、オリオンはかなりぼくらが言うことを理解している。教授はそれに興味を持ったのだろう。
でも、きみらにわざと見せないようにするためではなく、ストレスのない状態でオリオンを研究したかったんだと思う」マイクはそういうのが精いっぱいだった。
教授はまだ帰ってこない。教授が言っていたように、これを公けにすることはできないので、自分たちだけで動かなければならない。
マイクは部屋を出てからアントニスに電話をした。アントニスも、最初何が起きたのかわからなかったようだ。
ようやく状況がわかったアントニスは、「オリオンの体が心配だ。ぼくらにできることはないか」と聞いた。
「教授と助手が手掛かりを調べている。何か分かったらすぐに連絡する」