ピノールの一生(11)
今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(108)
「ピノールの一生」(11)
2人は、なるべく大木の陰に隠れながら逃げました。向こうは最新のロボットですから、ビームを出して感知することができるはずです。
大木の陰にいったん入れば、そこで動くものを感知できなくなるので、相手をまくことができると考えたのです。
確かに足音がだんだん小さくなってきました。もうセミの鳴き声しか聞こえません。どうやらあきらめたようです。
しばらく行くと、大きな洞(ほら)がありました。しかも、前には洞の上にある木の枝が覆いかぶさっていました。そこでしばらく休むことにしました、
ピノールとモイラもロボットですから、人間のようには疲れることはないのですが、ピノールは数百年前のロボットですから、マックスの状態で長時間体を動かすとモーターが故障するかもしれないからです。それと、モイラと早く話したいという気持ちを抑えることができなかったのです。
「やっと逃げられたね」
「ピノール、ありがとう。もうだめかと思っていたの。私がここにいるのがよくわかったね」
「ケイロンが、海の近くで暮らしたいと言っていたのを覚えていたので、絶対船に乗るはずだと思って港に行ったんだよ。そこで話しを聞くと、どうやらブリーズ島に行く船に乗りこんだことがわかった。それで、追いかけたというわけさ。でも、あいつらは、よく高給避暑地に別荘をもっていたなあ」
「あの別荘のオーナーが病気になって、しばらくこないことを小耳に挟んだので使っているだけのようよ」
「なるほど。さて、これからどうしよう」
「早くパパとママに会いたいわ」
「そうだろうね。ぼくも、きみのパパとママに、必ず連れてかえりますと約束したから。
お金があれば、ヘリコプターですぐに飛ぶことができるんだけど」
「そんなこと気にしないで」
「じゃ、暗くなってから港に向かおう。船に乗ってしまえば、こちらのものだ」
「そうしたいけど、あなたの体がどんどん錆びてきているわ。大丈夫?」モイラは、ピノールの顔を見ながら言いました。
「何しろぼくはポンコツロボットだから」
モイラはピノールの顔や体の錆を一生懸命こすりました。ピノールは涙が出ないけど、うれしくてたまりませんでした。
陽は沈んで、あちこちでライトがつきはじめました。「よし、行こう」2人は林を抜けて、ケイロンたちがいる別荘から離れた道を下っていきました。
2人は急いだので朝3時には港に着きました。しかし、始発の船は5時発です。しばらく待たねばなりません。
1時間ほどしたとき、人影が見えました。「やつらだ!追いかけてきたんだ」2人は裏口からそっと出ました。
「しかし、船の時間を調べているはずだ。困ったな」
「時間をずらしたら?」
「でも、それじゃ、どの船でも見張っているだろう。そうだ!わざと追いかけられて、途中できみだけ船に乗るんだ」
「じゃ、あなたはどうするの?」
「ぼくは何とかするよ。また、しばらく会えないけど、必ず帰るから」
「ピノール」
「帰ったらパパとママにたっぷり甘えるんだ。そして、時間があれば、ゼペールじいさんにぼくのことを言っておいて」
「わかったわ」
4時30分になりました。ピノールは、関節を調べました。「大丈夫だ。よし行こう」
そして、待合室のまわりにいる4人の家来を見て、さもびっくりしたように逃げました。
「いたぞ!」4人は追いかけてきました。そして、途中建物の陰に逃げこんで、さらにモイラは別の道から乗船口に急ぎ、船に乗りこみました。
ピノールはどんどん逃げました。しかし、後ろを振り返ったとき、何かにけつまずき、そのまま海に落ちてしまいました。