ピノールの一生(6)

      2017/05/29

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(97)
「ピノールの一生」(6)
ピノールが電話に出ると、モイラのパパからでした。ひどくあわてています。
「ピノール、たいへんだ!今ケイロンの家来が10人ぐらいやってきて、モイラを連れていった。すぐに来てくれないか」というのです。
ゼペールじいさんは、それを聞くと、「すぐに行きなさい」と言いました。
「かまいませんか。用事が終わったらすぐに帰ってきます」ピノールは出かけようとしました。
「ピノール、ちょっと待て。おまえの体を少し頑丈にしてやろう。ガラクタのロボットから取っておいた部品がある」ゼペールじいさんはそう言うと、ピノールの顔と胸にハンダで金属の板を貼りつけました。
「ネジで止める時間がないから、これで辛抱しろ。少し重くなるし、『見てくれ』もよくないが、かなりの衝撃に耐えられるはずじゃ。それから、これも持っていけ」と小さな袋を渡してくれました。
ピノールは、それを胸のポケットに入れて、玄関を出ました。
見送るゼペールじいさんに、「帰ってきたら、毎日家事をします」と礼を言って、モイラの家に向かいました。
午前1時を過ぎていますので、あたりは真っ暗です。しかし、モイラの家の前に来ると、玄関が開きました。認証システムが働いたのです。
家に入ると、モイラの親が心配そうな顔で迎えてくれました。事情を聞くと、家来は屋根から入りこんできたようです。2階からモイラの悲鳴がするので慌てて2階に駆けつけると、もうモイラの姿はなかったというのです。
窓が開いていたので、外を見ると、前を照らす光がかなり見えていたそうですから、大勢の家来が来ていたのでしょう。
「最新のロボットが家来になったようですね。ぼくが知るかぎり、空を飛べるのはいませんでしたから」
「わしらは人間ですから、間に合っても娘を取りもどせたかどうか」パパは肩を落としました。
「気をしっかり持ってください。ぼくがかならず助けますから」
「ありがたい。でも、ゼペールじいさんは心配しないか」
「大丈夫です。早く行くようにと言ってくれました」
「それならよかった。お願いする、わしらも、GPSを使ってどこにいるか調べるから」
ママもショックのあまり声が出ないほどでしたが、ピノールはママの手を握り、「心配しないでください。ぼくが必ず連れてかえりますから」と声をかけました。
ピノールは、逃げた方向を聞いて、そちらへ向かいました。
しばらくすると、モイラのパパから、「GPSで追尾できなくなっている」と連絡が入りました。
そうか。すぐにモイラの装置を取りだしたのだな。普通のロボットならそんなことはできないのだが、専門的な知識をもったものも仲間に入れたのか。
そして、道が分かれています。ピノールは止まってどちらに行ったか思案しましたが、まだ夜明け前で何も見えません。目の光を最長までしましたが、何も見えず、音もしません。
一方の道を少し行き、また戻ってきて反対の道を進みました。
「わかったぞ!モイラは、GPS装置が取られたので、体内にある油が出るようにしたのだ。
このにおいを辿っていけば、居場所がわかるはずだ」ピノールはそう言うと、最初の道を急ぎました。
そして、いくら道が分かれていても、迷うことなくドンドン進みました。
夜明けになって、ようやく町に着きました。今度はそういうわけにはいかなくなりました。
なぜなら、今までは木や草が生えていた山道だったので、油のにおいはすぐにわかったのですが、町に入ると、車や食べもののにおいが溢れていて、モイラの出すにおいがわからなくなったのです。
昼過ぎになると人間が歩けるような気温ではなくなるので、早朝散歩する人がいます。
ピノールを見ると、「あれがなんだ?」「ロボットのようだ。昔の教科書で見たことがある」、
「どこかの博物館から逃げてきたのじゃないか」、「すぐに警察に連絡をしよう」と人々は話しあっています。
しかし、ピノールは気にかけませんでした。モイラが出すにおいは5時間でにおわなくなるからです。

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