議論

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(79)

「議論」
「おや、キツネさんじゃないか」キツネは声がする方を見上げました。
「何だ、サルか」
「何だとはご挨拶ですねえ。でも、久しぶりじゃないですか」
「3年ほど忙しくてね」
「風の便りで聞いていましたが、あれはもうすんだのですかい?」
「いや、もう少しだ」
「それじゃ、どうしてここへ?」
「ちょっと入用のものができてね」
「こんな山の中にですか?なんならお探しますよ」
「時間がないからそうしてくれるか?何とかいう花だ。夜中に輝く・・・」
「月のしずく?」
「そうそう。あれがいるんだ」
「最近はすっかり少なくなりました。それに、キツネさんのような素人が昼間は探すは無理だ。おれが山の中を探してきます」
サルはそう言うと、枝をぴょん、ぴょんと渡ってどこかへ行きました。
しばらく待っていると、ざわざわと音を立てながらサルがあらわれました。口には純白の「月のしずく」という花を5,6本くわえていました。そして、「これが精一杯で」とキツネに渡しました。
「十分、十分。また、たっぷりお礼をするよ」とキツネは喜びました。
キツネが気を許したので、サルは日頃聞きたいことを聞いてやろうと思いました。
「ところで、これを何に使うのですか」
「プレゼントだ」
「騙(だま)ための小道具ですか」
「人聞きが悪いことを言うな」
「まさに人聞きだ。いつも人を誑(たぶら)かしているものなあ」
「おれたちは相手を幸せにするために化けるんだ。おまえたちはおれたちの本性を知っているから相手にしないだけだ」
「でも、『キツネにつままれる』というのはよくない意味があるようですよ」
「ったく!」キツネは不機嫌になりました。しかし、「月のしずく」を探してくれたので、そう邪険にできません。
「今は長い間行方知らずだった息子に化けているんだ。突然帰ってきたってね。
年老いた母親は一人暮らしで、寝たきりのようだったが、おれを見るなり元気になったぜ。今じゃ毎日野良仕事しているよ。
今度お殿様が猟の帰りに村にお立寄りになる。そのときに、夜中にぱっと輝く花を差しあげようということになった。もっともおれが発案したんだがね。
そうすると、殿様の覚えがよくなり、村にご褒美がいただける。おふくろも幸せになるという算段だ。すごいだろう」キツネは得意げに言いました。
「なるほど。でも、キツネさんの化けの皮がはがれたら、村にお咎(とが)があるだろうし、おふくろさんも村から放りだされる。そして、キツネさんも・・・」
「縁起でもないことを言うな。人を騙して喜ぶのは一部の不心得だ。おれたちは、自分たちの特技を生かして、困った人を助けることに無上の喜びを感じる動物だ!」キツネは、堪忍袋の緒が切れる寸前のようでした。
でも、サルは黙っていません。「でも、騙すことにはまちがいない」
「言っておくがな、目的は、人を騙す、騙さないかではなくて、相手を幸せにするかどうかだ!サルまねしかできないおまえたちにはわからないが」
「でも、騙されたことがわかったときのショックは辛いはずですよ」
「絶対にばれないようにするのが大人というものだ。ウソは真面目な努力に裏打ちされていなければならないんだ」
「聞いたようなことを言いますね。人が人を騙すのはお金のためでしょう?」
「よく言ってくれた!おれたちにお金が必要か。お金なんか葉っぱで作れるじゃないか。
つまり、おれたちの目的はお金ではない、つまり、私利私欲じゃないってことだ」
「ありゃ、まずいことを言ってしまった。でも、どんな目的でも、人を騙すのは悪いことですよ」
「おまえも、山を出たらほんとの世間がわかる。おれは急いでいるんだ。今晩お殿様をお迎えするための寄りあいがあるのでな」
二人は、いつかまた議論することを約束して別れましたとさ。

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