遊び

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(76)

「遊び」
今日も遊び声が聞こえます。赤ん坊が泣くと、誰かがあやしています。子供の声で、「どうしたの?」とやさしく声をかけています。赤ん坊のお兄さんでしょうか。お兄さんといっても小学生ぐらいです。
遠くで、「待て」とか「ずるいぞ」とかいう声がします。楽しそうです。どこから聞こえてくるのだろう?
和彦は、いつも声が聞こえるほうを見ました。でも、そこは真っ暗で、人がいそうには思えません。
「ママ、みんな楽しそうに遊んでいるよ。ぼくもそこに行きたい」
「こちらでもお友だちがいるでしょ?」
「ここの友だちはつまらないよ。みんな、じっとしているだけだもの」
「仕方ないでしょ」
「ぼくは、かくれんぼや缶けりをしたいんだ。どうして仕方ないんだよ?」
「わかりました。いつかは言わなくてならないことだからここにきて」
母親の顔が思いつめたようになったのに気がついた和彦は、おとなしく母親の前にすわりました。
「実はおまえはずっと前に死んだんだよ」
「死んだ!死んだって?」
「おまえが生まれて2か月のとき、近所に火事があって、それがおまえの体を・・・。
おまえが聞いたという声は、生きている子供の声です」
和彦は、母親の説明がよくわからず母親を見ていました。
「ママがおまえを守ってやれなかった」母親は苦しそうな顔になりました。
「よくわからいけど、ぼくは生きていないの?」
「そう。ママのお友だちに聞いたけど、急に亡くなった子供にときたま起きる現象なの」
「でも、いいよ。ママが、ぼくの分まで生きてくれたらいい」和彦は母親を励ましました。
「そのとき、ママも死んだの」
「えっ、ママも!」
「おまえには楽しい人生があったのに・・・」母親は和彦を抱きしめました。
「ぼくはかまわないよ。死んでもママといっしょだから」
でも,一つわからないことがあるんだけど」
「何が?」
「ぼくは2か月のとき死んだそうだけど、今は5,6才になっているという気がするけど」
「そう感じてくれればうれしいわ。生きているようにはいかないけど、生きていたらどうなっているだろうと思っていたら、ここでも少しずつ大きくなると聞いてから、毎日お願いしているおかげかもしれない」
和彦、自分でそう願ったらどうなるのだろうと思いました。友だちの事情はよくわかりませんが、ほとんどが一人で死んでしまったようです。そういう友だちは、成長を願う親が近くにいないので、死んだときのままなのです。
それで、友だちを集めました。そして、死んだときのことを聞きました。
「おぼえていないわ。ママが、『がんばるんだよ』と言っていた気がするけど」、「パパにぶたれた。バーンという音がしたら、ここにいたんだ」、「三輪車で遊んでいたら、キキッという音がしてわからなくなった」などの話を聞きだしました。
「やはり、そうか。みんな一人で死んだんだ。ぼくは、ある意味恵まれている。何とかできないか」
和彦は母親に尋ねました。「みんなにも大きくなってほしいんだね」母親は自分の友だちに相談しました。
「それなら、この年令なら、こんな遊びをするじゃろと思うものを教えたらどうじゃろ」と98才でなくなったおばあさんが提案しました。
それで、ままごとや鬼ごっこ、かくれんぼ、缶けりなどを毎日しました。
いつもしーんとしていた場所に賑やかな声が聞こえるようになりました。子供たちは、わずかながらも大きくなっていきました。
和彦の耳には、暗闇の向こうからの声が届かなくなりました。
今度は、暗闇の向こうにいて、ここにいる子供たちを知っている者に、遊び声が聞こえるようになったということです。

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