シーラじいさん見聞録

   

「そんな話はもうしたくないという顔をしていたので、ぼくは彼を励ました。ここで話を聞かなければ、もう二度と聞くことがができないと思ったからだ。
アルバモフは深く息をついてから、ようやくしゃべりだした。
「彼らの話では、そこは海底の国で、しかも、金や銀の財宝は無尽蔵にあるとのことだったな。人間の欲も無尽蔵で、彼らは、できるだけの財宝をもって帰ることにした。
それで、数か月かけて潜水艦の修理をすると、少しコントロールできるようになったそうな。
ただ、2000メートルの深さにいるから、そこを出て、ソフィアに帰るとなると、水圧に耐えることができるかどうかが不安だったが、一か八かやってみることにした。
海底の国を出てから、ゆっくり上に向かった。急ぐと水圧で潜水艦は木端微塵になってしまからだ。
海底の国に迷うこんでから半年後、ソフィアの海に顔を出したわけだ。こんなことは、世界にも、国内にも秘密だったが、政府でも、最初誰も信用しなかった。一番信用しなかったのはわしだがね。海底の国には、恐竜のようなものがいたとか言いだすのには笑ったよ。
しかし、やつらがもってかえってきた金や銀は本物で、深海2000メートルの国でなくとも、どこかで見つけてきたのはまちがいなかった。それだけでも、当時のソフィア共和国の国家予算の10分の1の価値はあった。
わしは、潜水艦がどこを航行したか調べろと命じた。やつらが面会に来たときには、話を静かに聞いていたが、恐怖で幻想を見ているとし思えなかった。
調査をしたが、結局、彼らの言うことには不自然なところはなかった。それで、海軍では、さらに性能が増した潜水艦を使って宝物を取りにいく作戦が持ちあがったが、わしは反対した。
冷戦が緊迫していたし、そのうえ、陸軍がクーデタ起こすといううわさもあったので、今はその時期じゃないと判断したからだ。
彼らは、どこかの国に入りこんで、うまく宝物をせしめたが、今度は警戒しているはずだら、そこで何かあれば、アメリアがどう出るかかわからないじゃないか。
しかし、混乱に乗じて、その作戦は行われた。わしは、それを知って激怒した。しかし、関係者の処分をする前に、陸軍がクーデタを起こした。わしは追われる身になったので、自分の身を守るのに必死だった。
首謀者のバクーニンが国を抑えたが、すぐに同盟国が反旗を翻してバクーニンを暗殺した。バクーニンはアメリアから莫大な金を得ていたとかなんとか言われているが、それはおまえさんたちのほうが詳しいだろう。
これで、納得がいっただろう。遺族には、わしが謝罪していたと伝えておいてくれ。
わしの知らないところで行われたとはいえ、当時の責任者はわしだから。
アルバモフはひじょうに疲れたように見えたので、ぼくは部屋を出た。
冷戦下では、すべて秘密になっていたので、ぼくも知らないこととばっかりだったが、当時の状況がよくわかった。
ところで、きみは、クラーケンが、昔から人間を攻撃する準備をしていたと考えているようだね。海底の国にいた恐竜がクラーケンかどうかはわからないが、アルバモフは覚えていることを余すことなく話したと思うよ。何か参考になったかい?」バーニンも疲れたようだった。
「ありがとう。参考になりました。海の生きものが暴れるのは、温暖化などの気象の変化以外に、何かあるのではないかと思っているので、船舶などの原因不明の事故を調べているのです」
「なるほど。さすが新聞記者だ。これからも何かあれば、連絡するよ」バーニンは電話を切った。
そうだったのか。オリオンたちが、海底のニンゲンに出会ったのは去年だから、もう16年も海底にいることになる。
現在なら、2000メートルの深さまでなら簡単に行くことができるのに。
翌日の昼、ブラウンが来た。さっそく、アルバモフのことを話した。
イリアスが、「オリオンは嘘をついていないよ。すぐにでも、ニンゲンを助けにいいけるじゃないか」と言った。
「イリアスが言うとおりだ。しかし、クラーケンが原因で、また国と国が争うようになってきているだろう。
オリオンが英語をしゃべることを知っても、どこかの国が何か仕組んだにちがいないと疑う。
それを打開するためには、事実を一つ一つ積みかさねていかなければならないんだ。そうやって、海底に閉じこめられているニンゲンも、オリオンも助かる」ブラウンは真剣にイリアスに答えた。
「それじゃ。海底には莫大な財宝があると言えばいいじゃないか?」
「それはおもしろい考えだ。国など当てにしないほうがいいかもしれないからな」
「しかし、ぼくらを理解してくれるニンゲンを集めなくてはならないよ。ニンゲンの欲に賭けるとしても」
「救出作戦には莫大な費用がいる」アントニスも、イリアスに、海底のニンゲンとオリオンを助ける難しさを説明した。

カモメは、リゲルたちに、シーラじいさんが向かっていることを知らせた。これからどうするか迷っていたリゲルたちは喜んだ。
「こちらから迎えにいったほうがいいのではないか」リゲルは聞いた。
「オリオンがいる近くの海は、クラーケンの動きが鈍いのです。今、あなたたちが動けば目立って危険です。仲間がついていますから心配はありません。
『急いては事を仕存じる』と伝えるように言われました」カモメはリゲルを制した。

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