シーラじいさん見聞録

   

アントニスはとイリアスは海に近いホテルを探し、ホリディインというホテルに連絡した。
空室はあったが。海とは反対側の部屋しかないということだった。そこで、3ヶ月泊まるという条件で、海側、しかも最上階の部屋を確保できた。
ここなら、オリオンがいる建物まで10分とかからないし、昼間にカモメが来ても危険が少ないからだ。
アントニスは部屋に入ると、まずアレクシオスに電話した。その間、イリアスはベランダに出た。カモメが探しているかもしれないからだ。
アレクシオスには、今日一日のことを話した。「カモメたちが、ここにいる小鳥を使ってオリオンを見張ってくれている。ぼくらも負けられないという気持ちだ」と言った。
「すごいな。それじゃ、作戦の準備はすんだようだな」
「そうだ。あとはシーラじいさんたちがどう動くかだ」
「今はどんな様子だい?」
「サウサンプトンはイギリス海峡から入った場所にあるから、クラーケンたちの動きは少ないようだ」
「しかも、イギリス海峡にはワイト島があるから、クラーケンたちは攻めにくいかもしれないな」
「ミセス・ジャイロに聞いたけど、最近では、ドーバー海峡にあまりクラーケンはあらわれないようだ」
「それは好都合だが、リゲルたちにとっても近づきにくいわけだ」
「そうだ。もうシーラじいさんとリゲルたちは会っているはずだから、ぼくらがどこにいるかわかったら、シーラじいさんからの手紙を運んでくると思うんだ」
「そうだね。何かあったらすぐに連絡してくれ」
そのとき、イリアスが、「カモメが上を旋回している!」と叫んだ。
「ちょっと待ってくれ。手紙をもっているかしれないから」アントニスはベランダに出た。
確かに、1羽のカモメがすぐ上を回っている。しかし、下りてはこない。カモメhあ、どこかの国のスパイとして使われているという説があるので、カモメはぼくらのために近づかないのだろう。
「だめだ。行ってしまった」
「きみらがどこにいるか確認したんだな」
「そうだ。また連絡するよ」
今度は、ミセス・ジャイロに電話した。
「空の住民が見事に見つけてくれたわね」
「今も、友だちに、今度はニンゲンの番だと話していたところなんですよ」
「そうね。こちらも、いつでも動く準備をしているから、何かあったら教えて」
「わかりました」
ミセスジャイロに、ホテル名と部屋番号を教えて切ったとたん、ブラウンから連絡が来た。
アントニスから話を聞くと、「ちょうどよかった。ぼくは半年休暇をもらった。今から、そちらに行く」という内容だった。
アントニスは驚いたが、「それじゃ、ぼくの部屋に来ないか。十分お広さがあるから、ホテルに言っておく」と提案した。
「それはありがたい。それから、バーニンが、旧ソフィア国の海軍大臣だったアブラモフと話ができたそうだ。近々きみに連絡をすると言っていた」
「了解。それじゃ、気をつけてきてくれ」
それから、10分ほどして携帯電話がなった。バーニンだった。
「アントニス君、きみが言っていたことはほぼまちがいないね。
バーニンは、最初この20年のことを聞きたがっているだろうと考えていたようだが、ぼくが、潜水艦事故のことを聞きたいと戸惑ったようだった。実際思いだせなかった。
それはそうだろう、国が政変でなくなり、自分も追われる立場になったのだから。
それで、ぼくは、政変の末期に、当時最高の潜水艦、その存在は秘密にされていたが、それが行方不明になったことがあるでしょうと教えてやった。
それで、だんだん思いだしてきたが、どうしてそんなことを聞きたいのかと不思議がった。
ぼくは、当時の乗組員の家族から調べてほしいと頼まれましたのでと答えた。
アブラモフはじっと考えていた。ようやく、あれは、わしが反対したのにもかかわらず、部下がどんどん進めていったのだと言った。
その話を要約すると、それは当時最速の潜水艦で、1000メートルぐらい潜航できたようだ。
そのテストをしているときに事故が起き、浮上することができずにどんどん沈んでいった。
艦内の空気も少なくなり、乗組員10人も意識が朦朧となってきた。その後、潜水艦は、2000メートルの海底まで落ちていった。
普通ならそこで乗組員は死んでしまうのだが、どうしたことか、潜水艦は海底に開いていた穴に吸いこまれていった。
みんな死んだようになっていたが、一人だけが目を覚まして、潜水艦が止っているように感じた。そこで、思いきってハッチを開けた。すると、空気がどっと入ってきた。あわててみんなを揺りおこした。
みんな意識が戻って、外に出た。どうやら夜のようで、赤や青、あるいは金や銀の光が輝き、まるでラスベガスに迷いこんだったそうだ。敵国の町ながら、みんな憧れていたからな。
今までの話は、事故があったこと以外は、わしは信用していないがね。だいたい海底の下に空気があるなんて信じられるかね。
しかも、ダイアモンドや金や銀が、何十、何百トンもあるというのだ。死期が迫ってきて、幻想を見はじめるようなものだ。
みんなちゃんとしておれば、戦争もしないで、国がつぶれるという愚かなことは起きなった。
アルバモフは、とうに90を越した老人だったので、このまま興奮させては危険だと思い、「それで、どうしました?」と落ちつかせた。

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