シーラじいさん見聞録
ベラからの手紙には、「オリオンはヨーロッパに向かったらしい」と書かれていた。
アントニスは、すぐにアレクシオスに電話を入れた。
「やはりそうか。しかし、それだけでは見当がつかない」
「カモメはあちこちで仲間を作っているということだが」
「確かにそれはすごいが、カモメの中にはオリオンの仲間がいるということがわかった以上、ニンゲンは、そうそうオリオンを外に出すことはあるまい」
「ぼくもそう思った。どうすればいいのだろう?」
「イギリスにいるミセス・ジャイロに連絡してみる」
ミセス・ジャイロはすぐに出た。アレクシオスは今までのことをすべて話した。
「こちらでは、またクラーケンが暴れまわっているので、オリオンを使おうとしたのね。
だけど、雲を使うような話だわ。カモメがオリオンの居場所を見つけてくれるのを待つしかないのかしら?」
「ぼくらもなす術(すべ)がありません。オリオンについては全く公表されていませんから」
「あっ、ちょっと待ってちょうだい。ジムが話をするそうですから」
「ジムです。ジャイロからすべて聞きました。オリオンは、今もニンゲンを助けようと必死なんですね、ぼくを助けたように。あまりにもかわいそうだ」
「そうなのです。それなのに、ニンゲンに捕まっている。それを考えると居てもたってもいられなくなります。
シーラじいさんたちはもちろん、あの物語を書いたアントニスとイリアスも同じ気持ちです」
「シーラじいさんの気持は痛いほどわかりますよ。オリオンから、そう早く泳げないと聞いていました。
イリアスが書いた物語は世界的に評判になっているそうですが、それを利用して、オリオンの今の状態を記事にすることはできないのですか?」
「ぼくも、そう思ったことがあります。しかし、現実に大勢のニンゲンが攻撃されているので、たとえ、どこにいるか書いても世論を喚起できるかどうか疑問です。童話を出した者が言うことじゃないのですが」
「そうですか。場所さえわかればおれが助けるのだが」ジムは悔しそうに言った。
「そうだ!カモメが探しているということですが、イギリスの海洋研究所とか軍の施設を調べて、ジャイロにそこに行かします」
「それで、どうしますか?」
「ジャイロがいることがわかれば、その建物を調べるのです」
「なるほど。しかし、シーラじいさんの傍にいるカモメなら、ミセス・ジャイロを覚えていると思いますが、新しく仲間になったカモメはわかるかだろうか?」
「それなら、ミセス・ジャイロがいつも赤い服を着ていたら、仲間だということがわかるかもしれない」
「それはいい。シーラじいさんに連絡をして、カモメから、新しく仲間になったカモメに伝えてもらいます」
これからも、オリオンを助けるために協力することを約束して電話を切り、すぐにアレクシオスに連絡をした。
「それはグッドアイデアだ。すぐに手紙を書く」アントニスは興奮して言った。
そのころ、オリオンの仲間のカモメは、海岸沿いを進み、仲間を集めていた。
「オリオンが飛行機で運ばれた。それから、どこかの施設に運ばれるはずだ。オリオンを助けだせば、海に平和が戻る。そうなれば、わしらも、前のように、何の心配もなく生活ができる。協力してくれ」4羽のカモメは、休むことなく飛び、カモメを見れば説得した。
断るカモメも多くいたが、仲間になるカモメも少しずつ出てきた。
「わかった。どうすればいいのだ?」
「飛行機からタンクが降ろされて、トラックで運ばれるはずだ。それを見つけるのが一番だが、もう運ばれたかもしれない。それで、海岸沿いの大きな建物を探してくれないか」
シーラじいさんは、アントニスからの手紙を読んで、赤い服を着たニンゲンは仲間だと伝えるように、カモメに頼んだ。カモメは、すぐに飛び立った。
それを見送りながら、こうなったら、いつまでもここにいることはできないと思った。
わしらも、ヨーロッパに向かうべきじゃ。しかし、地中海を出ることができるか。
リゲルたちが苦しんだように、出口には強力な電波が出ている。方向感覚が狂えば、命取になる。しかし、後戻りはできない。
シーラじいさんは、リゲルたちを呼び、今の状況や自分の考えを話した。
リゲルは、「ヨーロッパに行きましょう。それしか、オリオンを助ける方法はないです」と言ってくれた。
「クラーケンたちは、多分、アフリカを回ってヨーロッパに行ったはずじゃ。
だから、出口の警戒は多少手薄になっているかも知れないが、今も、センスイカンなどから強力な電波は出ているはずじゃ。
わしが先頭に立つ。ペルセウスも影響がないから、2人についてきてくれ」みんなは了解した。
ベラは、アントニスに手紙を書いた。「わたしたちは、ヨーロッパに向かいます」
アントニスは驚いた。手紙の内容を聞いたイリアスは、「ぼくらも行こうよ。みんなでオリオンを助けよう」と叫んだ。
「そうか。それがいいかもしれないな。おまえも行くのか?」
「もちろんさ。みんながんばっているのに、こんなところでゆっくりしておれないよ」
「じゃ、すぐに準備にかかろう」
アントニスは、アレクシオスに電話をした。
事情を聞いたアレクシオスも、最初は驚いたが、すぐに賛成してくれた。
「それなら、当社の特派員として行ってくれ。社長に頼んでみる。そうすれば、身分も保証できるし、住む場所も心配ない」
「それはありがたい」