シーラじいさん見聞録
シーラじいさんの青い目が光った。
「あなたが言うとおりじゃ。ただ、チャンスは、突然やってきて、突然消えていくものである。
イリアスは、オリオンを絶対助けたいと思っていたので、その一瞬を逃さず、チャンスを掴むことができた。読者も、同じ気持ちじゃった。それが、ベストセラーになった理由かもしれぬ。
実際のオリオンは研究所に閉じこめられているので、イリアスも、わしらもどうすることもできぬ。
しかし、わしらは、陸から、空から、海からチャンスを待っている。あきらめなければ事態は一気に変わる」
ミセス・ジャイロは、海に落ちそうなほどシーラじいさんに近づいて叫んだ。
「ジムもわたしも、すぐに駆けつけることはできませんが、できることをやります」
「頼みますぞ」
アントニスは、シーラじいさんに挨拶をして、岸に戻ることにした。
その時、リゲルが近づいてきて、「オリオンは大丈夫でしょうか?」と、ベラを介して聞いてきた。
「ああ、リゲル、オリオンは絶対大丈夫だ。聞いているだろうが、きみたちがいない間に、『自分にかまわず作戦を遂行せよ』と言うために、同じプールにいたイルカを、病気のふりをさせて逃した。
今度は、カモメを使う方法を考えた。カモメの話では、オリオンは、外のプールに連れてこられたことはない。つまり、密かに仲間を集めていたということになる。
オリオンは、これからも何か考えるだろう。きみも、チャンスに備えて、その準備をしておいてくれ」それを聞いたリゲルはうれしそうにうなずいた。
ミセス・ジャイロは、その話を、目を大きくして聞いていた。
岸に向かう途中、アレクシオスが、ミセス・ジャイロに声をかけた。「シーラじいさんの話には引きこまれるでしょう?」
「最初は夢かと思ったわ。しかし、それも一瞬で、すぐに仲間と話しあっているという気持ちになったの」
その日の深夜、ミセス・ジャイロは、ヨーロッパでのニンゲンやクラーケンの情報を知らせることを約束してイギリスに帰った。
2日後の夕方、カモメが1羽あわててやってきた。
ペルセウスがそれに気づき、「どうしたんですか」と叫びながら近づいた。
「大変なことになった。ニンゲンに見つかった」カモメはあわてている。
「何を」
「手紙だ」
「ほんとですか!」
「すぐに説明するので、みんなを集めてくれないか」
「了解」ペルセウスはすぐに姿を消した。
2,30分後に、シーラじいさんを除いて、みんな集まってきた。
「この2日間、手紙を渡すチャンスがなかったので、今日こそと思い様子をうかがっていたんだ。今日は、朝から、訓練をするニンゲンの出入りが激しく、死角が生まれるような気がした。
午後、3人のニンゲンが建物の中に消えて、1人だけで訓練をした。
手紙を受けとるイルカが、それに気づいて、すっとわしらの下に来てくれた。
いつものように、わしが、訓練をしている方に行き、その間にもう一人が手紙を渡そうとしたその瞬間、反対の建物からニンゲンが出てきた。それが目に入ったのか、イルカはあわてて潜った。
手紙は、空を舞い、水の上に落ちた。あわてた仲間はそれをくわえようとしたが、イルカが激しく動いたので、波が高く、うまくつかむことできなかった。
わしも加勢しようとしたが、手紙はほとんど沈みかけていた。
ニンゲンは、最初は手紙のことには気づいていないかもしれないが、わしらの様子から、妙な気配を感じたかもしれないな。それで、わしらを追いやって、プールを覗いていた。
すぐにここに来たわけですが、今後、今ヨーロッパに向かっている4羽を除いた全員を、研究所の監視に当たることを決めました。ほんとに申しわけないことをしました」
後から来たシーラじいさんは、ベラから様子を聞いていた。
「それはまずいことになったな。でも、気をつけてくだされ。今度は、あなたたちも仲間ということがわかれば、あなたたちを捕まえようとするはずじゃから」
「シーラじいさん、このことを、アントニスに知らせましょうか」ベラが聞いた。
「そうじゃな」
「それじゃ、少し待ってください」ベラは、手紙を用意するために潜った。
オリオンの親友が近づいてきた。しかし、すぐには近づかない。オリオンも気づいていたが、自分からも近づこうとしない。不自然な動きは警戒されるからだ。
潜ったとき、偶然出会ったというようにしなければならないのだ。
二人は、ようやく底で近づいた。
「きみに申し訳ないないことをした」
「どうしたんだ?」
「レターが見つかった」
「そうか」
「おれが悪かった」
「そんなことはない」
「このままですむとは思われない」
「何が起きても準備はできている」
「そう思ってくれると助かる」
「ピンチはチャンスを連れてくると、きみが言っていた」
二人は別れた。