空の上の物語

   

「ほんとにヘンな童話100選」の(37)

「空の上の物語」
ようやく地上からの熱が和らぐようになった秋の午後です。
黒い傘、花柄の傘、ビニール傘、そして、天然桜材の柄の傘が、のんびりと心地よい風に吹かれていました。
天然桜材の傘は、地上にいるときとの差に耐えきれず、身をすぼめて地上に突きささったのをみんなが助けた傘です。
空に戻った桜材の傘は、ようやく今の自分を受けいれるようになり、自分にも、この空でできることはないかと思うようになりました。ほかの3人は、友だちも多く、友だちから頼られるのを知ったからです。
それで、いつも3人と一緒にいました。特にビニール傘から離れようとしませんでした。地上なら考えられないことです。ビニール傘は、100円で売られていますが、桜材の傘は何万円もするからです。
「ぼくは、きみと正反対だよ。最初、ここに上がってきたときは、こんなみすぼらしい恰好で大丈夫だろうかと思ったものだ。
実際、みんなから馬鹿にされた。『あんな恰好でよくここまで上がって来られたものだ』とか『いつまでおれるかな』と笑いながら、ぼくを見ていた。
でも、この2人が、がんばれと励ましてくれた。すると、かなりきつい風でも耐えられるようになったんだ。
きみは、この空の誰よりも恵まれているんだから、のんびり構えていたらいいのだよ」
ビニール傘は、そのように桜材の傘を励ましました。
「最近、空も変わってきたなあ」黒い傘が言いました。
「そうだな。誰にも邪魔されずに、一日中うたたねしておれたのに、突然、上から身をすぼめて体当たりしてくる輩(やから)がいる」ビニール傘が答えました。
「当たられたほうが、『何をするんだ!』と怒っても、『おまえがそこにいると、景色が見えないからどこかへ行け』とかいうようよ。自分が動けばいいのにね」花柄の傘も怒っています。
「昔は、喧嘩するときでも、当たる寸前に少し身を開いて、そう強く当たらないようにしたのに、最近は、手心をくわえないのがいる」
「あの気のいいおじさんも、『おいぼれ、どこかへ行け』とかやられて、そのまま落ちてしまったの。また会いたいわ。とってもいいおじさんだから」
それは、あちこちボロボロでも、いつもにこにこ笑っている老人の傘のことです。
「老人を大事にしない国はいずれ滅びるよ。経験が切れてしまうからね」黒い傘が顔を歪めました。
「最近、嵐が多いだろう?ぼくも、嵐の乗りこえ方を教えてもらわないと、いつまでここにおれるか心配になんだ」
「ぼくの友だちに、偏西風の乗り方がうまいものがいる。今度会わせてやるよ。
そういえば、この前、偏西風に乗って、世界中を回ってきたそうだけど、この前変なものを見たと言っていた」
「へんなもの?」
「そうだ。道からあふれるほどの人がいて、大きな声で何か叫んでいる。そして、あちこちの建物の中に入ったかと思うと、ドンドンという音がした。
やがて、大勢の人間が、手に何か持って出てくると、建物から火の手が上がった。
そんなことがあちこちで起こっていたようだ」
「何だろう?」
「わからない。やがて、ここに帰ってくると、ここでも、夜中から人が集まりだしたんだって。
心配して見ていると、みんな暴れたりしないで、じっと座っていた。やがて、朝になると、カメラをもったものが集まってきて、それを写していたそうだ。
しばらくすると、わっーという声がしたので、建物になだれこむのかと思っていると、建物の中からも人がいっぱい出てきて、拍手で迎えていた。中には握手するものもいたそうだ。
やがて、手に何かを持って出てきたが、みんな大事そうにしていた。
「何だろう?」
「これもわからない。今度チュー吉に聞いてみよう」
そのとき、「たいへんだ。暴動が起きているから、すぐに来てくれ」という声が聞こえた。

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