ユキ物語(8)
今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(221)
「ユキ物語」(8)
鳥が鳴いている。何だか楽しそうだ。それに、はっきり聞こえる。いつもはガラスで遮られているから、外にいる鳥の声はあまり聞こえない。どうしたんだろう。店で鳥を飼うようになったのか。気になって目を開けた。
しかし、ここは店ではなさそうだ。おれは立ち上がった。頭をガンと打った。
天井は頭すれすれの高さしかない。しかも、鉄の棒で囲われているではないか。
ここはどこなんだ。おれは狭い中を動いてまわりを見た。
近くには机のようなものがあってかなり狭い場所だ。窓からは家の屋根が見えるから2階なのか。そして、木の枝がある。ときおり枝が揺れるから、鳥は枝で鳴いたり飛んでいったりしているのだろうか。
おれは閉じ込めれていることが急に不安になった。
しかし、あせって鉄の棒で体をぶつけることはばかげたことだ。おれは自分に言い聞かせた。
とにかく、おれを閉じ込めたものがいるのなら、おれをほっておくことはしないはずだ。
そいつの姿を見たら何か方法が分かるだろう。おれはそう思って静かに待つことにした。
1時間ほどしてドアが開いた。おれはそちらを見た。若い男だ。おれに食料と水を持ってきたようだ。
鉄の棒の下側を開けて、「狭いがしばらく辛抱しろよ」と言いながら、皿を置いた。
それから、机にすわって書類を見はじめた。おれは腹が減っていたが、おれは其の男を観察した。
「しばらく」と言ったな。これはどういう意味なのか。どこかに連れていくつもりだろうか。そして、それは何のためだ。
しかし、これだけでは何もわからない。もう少し状況を見よう。
こいつは20代か。悪いことをしそうな顔はしていない。店に来て、「ようやく家を買ったので犬でもと思いまして」と言う善良そうな男に見える。
その時、ドアが開いて二人の男が入ってきた。
一人は40代で、もう一人は最初の男と同じように若い。
「どうでした?」最初の男が言った。
「店にはこいつの張り紙が何枚も貼ってあった。それから、近所の店には貼ってあった」若い男が答えた。
「必死で探しているようだ」40代の男も言った。
「そうでしょう。看板犬でしたからね。散歩しているときは子供たちが集まっていましたから」
「いくら出すと思う?」40代が聞いた。
「100万はどうですか?」一緒に帰ってきた若い男がすぐに答えた。
「100万か。いくら看板犬でも、犬に100万出すか」40代は少し躊躇したように言った。
「でも、普通の店の看板犬ではなくて、ペットショップの看板犬ですよ。子犬でも何十万するのですから、出せない金額ではないでしょう」若い男は強気だった。
40代は、「うーん」と唸った。それから、「とにかく妙なことを考えないぐらいの金額がいいんだ。それに、代わりのものがいれば、あまり高いと払わないだろう」
「それはそうですが」
40代は、それでもまた考えだした。「途中で値引きすると足元を見られるからな。しかし、おまえの考えはよく分かった。それじゃ、100万で行こう。それで渋ったら何とかしよう」
おれはこいつらに尻を向けて聞いていた。こいつらはおれを誘拐したんだな。そして、解放するかわりに100万円を取ろうとしているのか。