ユキ物語(7)
今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(220)
「ユキ物語」(7)
やつは、「ここです」と言うようおれを見た。それから、狭い穴に体を入れた。しかし、骨と皮だけになっていてもすぐには入らないようで、無理に体を押し込んだ。
おれにもそうせよと言うのか。しかし、そんなことは聞いていない。おれが抗議しようとしたが、やつは中に入ったので姿が見えない。おれは仕方なしに穴に頭を突っ込んだ。
そいつは、早くしてくださいと言うようにおれを見ている。おれは一瞬帰ろうかとさえ思ったが、ここまで来てしまったので、その考えを抑えて体を押し込んだ。ぐっと力を入れると体が動いた。さらに力を入れると、体がすっぽり抜けた。
やつはおれが入ったことを確認して前に向かった。おれはあらためて抗議しようとしたが、あたりの雰囲気が不気味なのに気づいた。
しーんと静まりかえった暗闇の中にさらに黒いものが無数に立っているのだ。しかも、やつはその間に入っていくのだ。おれは体がすくむのを感じた。
やつをおれの異変を感じたのか、「ここはお寺という場所で、死んだ人間を弔う場所です。人間は自分の家族が死ぬと、墓の中にお骨を収めます。それで、時々会いに来ています。
墓と聞いただけで怖がるものがいますが、どこが怖いのかぼくにはわかりません」とおれをからかうように言った。
ばかばかしいから、おれは何も答えず進んだ。ようやく前に大きな建物があった。近くには小さな灯りがついていたので、形はわかった。
おれが散歩の途中で見るような建物ではない。これが寺なのか。
しかし、やつはそばを通って背後に回った。またしばらく行くと、小さな建物があった。
先ほどの建物ほどは大きくないが形はよく似ていた。やつは、「ここです」と言った。床が高いので無理をせずに中に入ることができた。
すぐに石垣のようなものがあり、そこを上がると、やつは、「連れてきたよ」と声をかけた。
おれは緊張した。ほんとかどうかはわからないがおれの兄弟と言っているやつがいるのだ。しかし、返事はない。ただ誰かいる気配はあった。
おれは目を凝らして見たが、何も見えなかった。柱のようなものがあってその陰にいるようだ。
その時、「こちらに来てください」とやつが言ったので、おれは柱のそばまで行った。
白いものが横たわっていた。顔を少し上げたようだが、おれに似ているかどうかはわからない。
「きみが言っていた兄弟が来てくれたんだよ」やつはまた繰り返したが、返事はない。
おれはどうしたらいいのか分からなかった。まさか兄弟と呼びかけるわけにはいかない。
確かに5,6人兄弟はいたようだがすぐに別れ離れになったのだから、どんな兄弟がいたかわかるすべはないのだ。
仕方がないので、おれは、「きみはいい友だちがいて幸せだ。友だちのためにもがんばるんだ」おれはあたりさわりのないことを言って慰めた。
やつは、「ありがとうございます。こいつは兄弟に励まされて喜んでいます」と言った。
その時、背後で光が走ったように感じた。おれは振り返った。「この奥にいるんだな」という声が聞こえた。
「そうです。後を追いかけてきましたから」という声が続いた。
「何だ?」おれはやつに聞いた。「よくわかりません。こんなことは初めてです」と答えた時、光はあちこち揺れながら近づいてきた。
「ここは少し上に上がっていますからわからないと思うのですが」やつは言った。
しかし、「奥じゃないのか」という声がすぐそばで聞こえた。
もし見つかったら、おれの兄弟と言っているやつは逃げられない。
おれは、「二人でばらばらに逃げよう。こいつは動けないんだろう?」と言った。やつは、「わかりました」と答えた。
おれとやつはばらばらに逃げた。「いた!」という声が上がった。おれは走った。しかし、初めての場所だったので、あの狭い穴がどこにあるのか分からない。墓石さえ分からないのだ。
おれはがむしゃらに逃げたが、どこかの隅に追い詰められた。おれは数人の人間の間を潜り抜けて逃げようとしたとき、どーんという音が聞こえた。おれは意識を失った。