ユキ物語(4)

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(217)
「ユキ物語」(4)
今日もか!しかし、おれは今日こそあの目を無視してやろうと決めた。おれが見返すから、やつは図に乗るのだ。
それはうまくいった。30分後には店のすべてのカーテンが下ろされ、おれたちはバックヤードに戻った。食事をした後、若いものの相手をしてすぐに眠りにつくことができた。おれは敵に勝ったという満足感でいっぱいだった。
だから、翌日は気持ちよく仕事に取りかかることができた。これでやつがあらわれることはないだろうと思って、その日を過ごした。
しかし、その日の夕方西側のカーテンが下ろされ、何げなく外を見るといた!
おれは足が震えだした。しまった。どうして外を見るんだ。おれはおれを激しく叱った。やつを無視するという作戦が失敗したのだ。
動揺は傍目(はため)にも分るほどだったようだ。「どうしたの、ユキ。どこか悪いの?」と聞く店員もいたぐらいだ。おれが痙攣を起こすような仕草をしたからだ。店員はおれ近づいて子細に体を見た。おれは何とか平静を装ったので、店員は安心しておれから離れた。
おれはここでユキと呼ばれているが、今はそんなことに言及する余裕はない。
とにかく、おれはやつに尻を向けてこの場を過ごすことにした。
ようやくその日は終わった。おれは不意を突かれるとすぐにたじろぐが、すぐに元に戻ろうという意思も他のものより強い。
冷静になって、作戦そのものは間違っていないはずだ。作戦どおりにしなかったのが原因だと結論づけた。
そこで、これからはカーテンの時間が来たら、細心の注意でやつがいるほうを見ないようにしようと決めた。
しばらくの間はうまくいった。そろそろ一週間たつ。おれは作戦が成功したらどうか確認したい誘惑にかられた。
やつがいるほうを、いや、いたほうを見ないことに慣れてきた。そして、心は平穏になってきたから、自分の作戦の結果を確認したくなった。
しかし、すぐには実行できなかった。もしやつがいたらと思うと少し躊躇したのである。
何かうまい方法はないか考えた。おれは人間のガキにさわられながらも懸命に考えた。
そして、ある方法を思いついた。つまり、いつものように尻をやつのほうに向けるのであるが、首を少し曲げて目の片隅で確認するのである。
もしやつがいても、おれが見たということはやつは気づかないはずだ。それに、もう一週間たっている。いくらなんでもと思った。
おれは自分を女々しく思ったが、少し首を曲げてやつがいるはずのほうを見た。どうもいないようだ。あきらめたようだな。そう思ったが、今日はこれ以上の角度は取らないようにした。
もしいたらどうなるのだ。それがおれの臆病なところであり、慎重なところである。しかし、作戦はほぼ成功したという思いで、その日は終わった。
翌日、おれは首をもう少し曲げてやつを確認した。一瞬のことでよく分からない。
しかし、このままでは終われない。おれはくしゃみをするふりをして、ぐっと首を回した。おれは信じられなかった。確かにいる。
おれは、店員にもやつにも動揺していることを悟られないようにふるまった。
そして、やつの意図を考えるべきだと思った。まず、やつは毎日おなじ時刻にあらわれる。美佳がカーテンを下ろす意味が分かっているかのようだ。
西側のカーテンが下ろされると、掃除や打ち合わせをして30分ほどで店は閉まる。もちろんおれたちはそんなことはしないので、その間はのんびり待つ時間なのである。
おれも外を見ながらのんびりすることがある。それに合わせて姿をあらわすことにしているようだ。つまり、おれに用事があるのだ。

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