底抜け

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~

「底抜け」
――きみにゆうとかんことがあるねん
――なんや出てきたそうそう。ほんまに大事なことなら楽屋でゆういな
――まあそうやけど、お客さんに証人になってもらったほうが決意も変わらんと思うてな
――わかった。それならここで聞くわ
――きみがいたからぼくも漫才を続けてこられた。きみには感謝してしもしすぎるということはない
――えらいことになってきたなあ。そんなことはどうでもええけど、どんな話や
――いやな。アメリカに住もうかと思うていたけど、やめることにしたわ。まずきみに安心してもらおと思うてな
――アメリカ!きみがか。今住んでいる西成区天下茶屋3丁目の長屋を出てか
――そうや
――ぼけている母親と二人で住んでいる家賃4800円の年中日が当たらん三畳二間の長屋を捨ててか
――まあそうやけど
――20年前に風呂屋に行くゆうたまま帰ってこない嫁はんの荷物が残っている長屋を飛びだしてか
――全部ゆうてくれたなあ。とにかくあそこにいることに決めたわけた
――まさか今度の大統領のことでセレブが外国で住むとゆうているのを真似てんのと違うな。アメリカに家賃4800円の長屋なんてないで
――わかっているがな。7億円の宝くじが当たったら狭い日本を飛びだそうと考えていたんや
――それより、狭い部屋を飛びだすことを考えたほうがええで
せやけど、宝くじに当たらんでも慌てて引っ越しせんとあかんことが起きるかもしれんで
――何や、それは
――地震や。特に南海トラフ地震や
――トラフグはうまいけどな
――食うたことないくせに。最悪の場合、きみの長屋も津波に呑まれる。しかも、いつ起きてもおかしくないそうや
――それはえらいこっちゃな。どうしたらええのや
――逃げるしかない
――どこへ
――高いところや
――天保山か
――あほか。最初に呑まれるわ
――それなら生駒山は
――あそこなら大丈夫や
――せやけど、家賃4800円の長屋はあるか
――あるかい!あそこは別荘地や。でも、しばらくはおらせてくれるやろ
――ただか
――ただや
――よかった
――のんきなやつやで。ぼけた母親はどうするねん
――漫才があるから、帰るまでそこの人に見てもらっとくわ
――ほんまに底抜けのあほや
――この世の底が抜けても、みんなであきらめずにがんばったら必ず元にもどると思うんや。ほら、お客さんが拍手してくれた。困ったことがあったら
  何でも相談してや
――えらそうに。でも、何が起きるかわからん時代や。底抜けには底抜けで対抗するしかないのか
――それでは、底抜けにおもろい漫才を終わろか
――きみがゆわんでも時間や

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