失踪(8)

   

「ほんとにヘンな童話100選」の(196)
「失踪」(8)
野間の母親からも、「警察が来たわよ」という連絡があった。
「捜索しているが、その後娘さんから何か連絡があったか」という内容だったそうだ。
少年は母親の次の言葉を待った。もしあると答えれば警察が本格的に捜査してくれるかもしれないが、今藤本たちとしていることに水を差すかもしれないという気持ちも少しあった。
「どうしようかと思ったけど、まずあなたたちの考えを聞いてからと思ったので、連絡はないと答えたの。言うのはいつでも言えますから。それに、警察が動いて、娘に何かあれば困るということも思いました」
「そうですね。藤本さんに連絡をして聞いてみます」
その夕方少年は藤本に連絡をした。「そうか。捕まった者は黙秘したままだそうだ。
同時に警察は全国で行方不明になった者を調べるとかなり現役の教師が多かったということが分かって、もう一度行方不明者の洗い直しをしているそうだよ。
うちの学校にも連絡があったそうだ。きみのお父さんは教師ではないが、いずれ連絡が来るかもしれないね。
野間さんは賢明な対応をしてくださったと思う。犯人が何か自供するかどうかも含めて、しばらく様子をみようか」
「それから、行方不明者の中で、野間さんの娘さんように家族に連絡をしている者がいるかもしれませんね」
「そうだね。きみが言うとおりだ。それなら、もっと情報が集まるかもしれないが、警察がぼくらに教えてくれるかどうかわからない」
「じゃ。もうしばらく3人で動いたほうがいいですね。何かわかるかもしれませんから」
藤本は自分で行方不明になった教師のことをこのまま調べることにした。少年ではそこまでは無理だからだ。
10日ほどして藤本から電話があった。「高橋くん。同じ県の100校ぐらいを調べた。友人からその友人、またその友人というように聞いてみた。
すると、5人の行方不明者がいたんだ。もちろん、野間さんやきみのお父さんとはちがうケースがあるかもしれないが」
「そうでしたか」
「それで、5人の家に行ってくる」
「ぼくも行きます」
「大丈夫か。日曜日ごとに、前もって連絡してから行くつもりだ」
「行けます。母もぼくがしていることを応援してくれるようになりました。
歯は妹もぼく以上に父を待っています」
「よく分かった。二人でがんばろう」
それから、藤本が前もって連絡してくれた家を訪れた。成田空港で捕まったパキスタン人と日本人らしき男の事件はみんな知っていて、自分たちの家族とも関係があるのだろうかと思っていたので、二人を断る家はどこもなかった。
行方不明になった人は、少年の父親と同じく40代で、子供も少年と同じく中学や高校に通っていた。もちろん、女の子もいたが。
二人が今までのことを話すと、同じように突然姿が消えたようだ。ただ捜索願を出して、ひたすら帰りを待つしかなかったようだ。
少年のように、自分で探してやろうとして父親が姿を消す寸前にいた飲み屋に行ったようなことはなかった。
少年の話を聞いて、同世代の子供から連絡があった。「これから自分たちで親を探したい。ぜひ仲間に入れてほしい」ということであった。

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