失踪(4)

   

「今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(171)
「失踪」(4)
自宅の反対方向に行きバスに乗った。繁華街が切れた場所に警察署があった。
警察署に行くのは初めてだったが、思い切って大きなガラスドアを開けた。
中は広く、見渡すとかなり奥のほうに数人の人が座っているのが見えた。
声をかけようとしたとき、どこからか若い婦警が来た。そして、「どうしました?」と聞いた。
「父親のことで話があるのですが」と答えた。
「お父さんがどうしたの?」
「4年前に行方不明になったままなんですが、新しい情報があるので聞いていただこうと思ってきました」
若い婦警は少し考えていたが、「ちょっと待って」と言って姿を消した。
しばらくすると、50代の警察官と一緒に戻ってきた。
「お父さんが行方不明になっているんだね」その警察官が聞いた。
「そうです」
「名前は?」
「父は高橋進で、ぼくが高橋明です」
「高橋進。ひょっとして高木町の?」
「そうです」
「確かぼくがここにきたときの事件だ。ここではなんだから向こうで聞こうか」と言って歩きだした。
玄関から奥に向かい、狭い廊下を通って左側の部屋に入った。先ほどの婦警が書類をもって入ってきたがすぐに出ていった。
警察官はしばらくそれを見ていたが、顔を上げて少年を見た。
「ぼくもきみの家に行ったことがある。しばらくして担当を外れたので、それ以降のことはあまり知らないんだ。お父さんからは連絡がないんだね?」
「そうです。警察からも何も言ってこないです」
「ほっているということはないんだが、何かと忙しくてね」警察官は言いわけのように言った。少年はうなずいたが黙っていた。
警察官は、「それで、どんなことが分かったのかい?」と聞いた。
少年は店で聞いたことを話した。話を聞くと、「うーん」と言ったが、表情には変わりがなかった。それから、「きみはどうしてその店に行ったのかい」と聞いた。
「母もあれ以来元気がありませんので、自分で何とかできないかと思って店に行きました」
「そうか。それはよくがんばった。でも、正直に言うと、それだけではなかなかね」少年はうなずくしかなかった。
警察官は、「お母さんも心配しているだろう。それに妹もいたよな」少年は今度もうなずいた。
警察官はしばらく考えていたが、「来週署内の会議がある。そのとき、お父さんのことはどうなっているのか聞いてみるよ。その店にも行くように言っておくから、しばらく待っていてくれないか」と慰めた。
「わかりました。よろしくお願いします」少年は礼を言って立ち上がった。
「お母さんにもよく言っておいてくれ」警察官の言葉に送られて部屋を出た。
翌日藤本に連絡した。「高橋君、待っていたよ!おっと、その前にきみの報告を聞こう」と言った。
話を聞くと、「そんなもんだろうな。彼らにとっては力を入れるほどの事件じゃないからね。それに時間も立っているし」
「また連絡すると言ってくれましたが」
「それは常套句だよ。とりあえずそう言うのだ。そんなことより、野間のことが少しわかった」
「そうですか!」
「野間は教員を辞めている。どういう理由かわからないが、懲戒解雇されているようだよ」
「懲戒解雇」
「クビになっている。教員の場合、身分が保障されているからそう簡単に解雇されないけど、何があったんだろうな。それについても調べてみるよ」
「それじゃ、野間さんには会えないのですね」
「それはわからない。実家にいるかもしれないし」
「それなら、ぼく、野間さん人の家に行ってきていいですか?」
「えっ、きみ一人でか?」
「そうです。自分の気持ちを伝えてきます」
「もう少し待ってくれたら、ぼくもついていくよ。明日から研修で出張なんだ」「ありがとうございます。またお願いすると思いますが、とりえず一人で行ってきます」と答えた。
藤本たちに頼むとしても、さきに様子を調べておきたかったのだ。中間テストが迫っていたが、逆にそれだから、図書館に行くと言えば母親は怪しむことがない。
翌日の放課後、また図書館に寄ると言って、野間の家に行くことにした。
私鉄の駅で降りた。そこから、坂が続いていた。地図で調べたとおり、途中公団住宅が並んでいた。
入り口の案内を見て、その棟に行った。エレベーターはないので5階まで階段を上がった。
インターホンを押して待った。返事はない。もう一度押したが人の気配がない。
留守かと思い、階段を降りようとしたとき、「はい」という小さな声が聞こえた。
「高橋と言います。少しお話があります」と慌てて答えた。
返事はない。しかし、じっと待っているとドアが少し開いた。

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