心臓
今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「心臓」
――さあ、今日も笑うてもらいまひょ
――そうやな。今日もがんばりましょ。せやけど、きみとは長いつきあいやった
――どないしたん、急に。しかも、漫才がはじまったばかりやで
――お互い中学を出て、すぐに師匠に弟子入りしたんやった
――気色わるいなあ
――あれから40年か
――まあ、そうやけど
――100才のばあさんなら140になるか
――なんや、それ。それでは長いゆうことがわからんやろ。100も140もしわくちゃや
――犬なら40才になると働き盛りや
――人間もそうやけど、犬は人間の7,8倍ほど早く年を取る。40才なら300才や。そんな犬おらんで。ギネスもんや
――ぼくらも、ギネスもんの漫才師になったか
――あほか。50年、60年も漫才している先輩はいくらでもいてはるわ。とにかく、どないしたんや?
――いやな。最近心臓が悪くて医者に通うているんやけど、このままではいつ死ぬかわからんと宣告されとるのや
――ほんまかいな。なんぞええ治療はないのかいな
――ない。これは先祖代々伝わる病気で、親も叔父、叔母、従兄弟も全部突然死した
――ほんまかいな。何とかならんのか
――ぼくは自分の運命を甘んじて受けるつもりや。ただ、きみに迷惑をかけるのが唯一の心残りや
――ぼくのことはどうでもええ。きみのことが心配や
――それを聞いて安心した。ぼくは、「まな板の下の鯉」やから大丈夫や
――それをゆうのなら、「まな板の上」やないか
――「まな板の上」なら目立つけど、「まな板の下」なら、見落としてもらえるかもしれんやないか
――まあな。ストレスが心臓には一番悪いそうやから、気になっていることがあったらなんでもゆうてや。
ぼくにできることならやらせてもらうで。お客さんにも聞いてもろといたらきみも安心やろ。
お客さん、証人になってもらえますか?ほら、大勢の人に拍手してもろうた
――さしいお客さんや。それなら、きみからの借金はないもんと思うてええか ―――まずそれかいな。長いこと返してもろてへんけど、借金のことはおぼえていたんか。
――あたりまえやないか。親友のきみから借りているんやで。忘れるわけがないやいか。
きみが忘れへんか期待していただけや
――あほくさ。まあしゃあないわ。ぼくがいいだしたことやから
突然死は、大人でも怖いのに、子供が災害で突然命を落とすのは気の毒でしゃあない。
それに、親兄弟は一生辛い思いをする。きみに何かあったら借金はなかったことにするから心配せんとき
――そうか。ありがと。嫁はん、喜ぶわ
――また拍手してもろたしな
――まだあるんやけど
――まだストレスがあるんか?
――今度家を直すんやけど、居間を洋風にするつもりや。それで、応接セットを置きたいと思うている。それをいただこうかしら
――「いただこうかしら」ゆうて、早いこと決めたなあ
――さっきからどうも心臓がおかしい
――わかった、わかった。ちゃんとするがな
――それから・・・
――もうええ。そんだけ心臓が強かったら、当分大丈夫や