PL法(2)

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(31)

「PL法」あるいは、「一言(ひとこと)」
神様は、まずローマ人の女のビデオを見ました。最近は、昔のようにその人間の生涯をすべて頭に思いうかべるのではなくて、ビデオという便利なものがあるので楽になりました。もっとも集中力が鈍るようになったので、止めよう、止めようと思っても、つい便利なものに頼ってしまうのです。
神様は、カリオペという女の生涯を早送りで見ました。そして、やはりこの将軍はカエサルのことであったかと納得しました。なるほど、なるほど。庶民の出なのに、息子が、軍人の子供より出世したのだな。夫のいない母親としては鼻高々だったのだろう。
しかし、戦争で大けがをして、気弱になったときに、「将軍に仕えなさい」と言ってしまったのか。
しかし、カエサルが暗殺された後、子飼いの部下は冷や飯を食わされたようで、この息子も、また前線に行かされて戦死したのだ。
母親は毎日泣いて暮らしたが、美しかったので(わしが見ても、そう思う)、近所のスケベ親父の妾になった。スケベ親父も亡くなると、また1人になってしまった。
それで、この一言を悔やんでいるのだ。「私はおまえが頼りだよ。すぐに帰っておいで」
と言いたかったのか。
よし、言わせてやろう。すると、母親孝行の息子は、カエサルが止めるのも聞かずに帰ってきたではないか。
そして、なくなった父親に負けず劣らず働いて、人を何百人と使う貿易商人となった。
地中海の国々を回っている間、あのスケベ親父が母親にちょっかいを出すようになった。
それに怒った息子は、スケベ親父を殺してしまった。息子は捕えられ、二度と牢獄を出ることはなかった。こっちの一言でも、淋しい晩年を送る破目になったか。
今度は19世紀の男だ。チェスターという名前か。この時代は産業革命といわれていたな。貧しい家庭の子供は、親を助けるために働きにでなければならない。
チェスターは15才で、13才の弟がいる。初等学校が終わる頃、親は、「どうするんだ?」と聞いてきた。なるべく働いてほしいという空気が流れている。チャスターが下を向いて黙っていると、弟が、「おにいちゃんは学校に行ったほうがいい。ぼくが働きに出る」と親に言った。
それなら、炭鉱より紡績工場のほうがよかろうと、コネで職場を見つけたのが、親としては精一杯だったのだな。
弟は、紡績工場で、朝の3時から晩の10時まで休まず働いた。しかし、3年後死んでしまった。過労だな。
チャスターは、弟の分まで勉強に励み、大学を主席で卒業した。そして、銀行を作って大金持ちになった。しかし、乗っとられて、不遇の晩年を送ることになった。
昔を思いかえしては、弟のことが不憫で仕方がなくなったようだ。あの時、自分は黙っていた。兄の自分が働くのが当然なのに。
それじゃ、プレーバックだ。兄が、「わかった」と言ったとき、両親は、うちの子供なら自分たちをブルジョワジーしてくれるかもしれないと考えて、無理をして2人に高等教育を受けさせた。
兄は、やはり銀行を作ったぞ。弟も、蒸気機関を作る会社を作り大成功した。
そして、兄が銀行を乗っとられそうになったとき、弟が資金を出したじゃないか!
チャスターが一言を悔やむのはやむをえないか。
最後は、唯一生きている人間だ。42才の大介という日本人だ。
今、妻と2人の娘がいるが、家には自分の場所がないと不満をもっている。それで、16年前に交際していた女のことが忘れられないようだ。あのとき、勇気を出して結婚を申しこんでいたらと思う毎日だ。
それなら、その日からスタートしようか。なるほど、女は楚々とした美人だ。
一介のサラリーマンの大介は、どうしようかと迷っているが、言わせよう。女は、うれしそうにうなずいたじゃないか。えい、早送りだ。ありゃ、またおんなじことを思っている。
神様は、ビデオをオフにしました。そして、じっと考えました。
わしに責任があるとしても、「一言」については今後無視しよう。どんな人間でも、自分が悔やむ一言が、生きるエネルギーとなっているようだからな。ただ、不治の病にかかったものには、希望なら生きなおしをさせてやってもいいか。
それじゃ、シャワーを浴びてから、ビールを飲みながら、新作の「へルタースケルター」でも観るとするかと立ちあがりました。

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