ピノールの一生(2)
2017/05/22
今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(90)
「ピノールの一生」(2)
こうして、一人暮らしだったゼノールじいさんと、ゼノールじいさんがばらばらにしていていたロボットの部品を集めて作ったロボットのピノールは親子のように暮らしました。
しかも、ピノールは働き者で、ほっておくと一日中働いています。
ロボットだから、いくら働いても疲れないさと思う人がいるかもしれませんが、二人がいるのは800年先の話ですから、今とは事情がちがいます。
工場で働くロボットは人間の形をしなくてもいいのですが、人間の形にするなら、必ず「心」をつけなければならないという規則があるのです。
つまり、肉体は疲れないが、「心」は、ロボットそれぞれで、まじめに働くのもいますが、すぐにさぼるのもいるわけです。
どうしてこうなったかと言いますと、大昔ロボットに「心」を入れたので(人間の夢でした)、自分たちの考えを主張しはじめて、ロボットは奴隷ではないという「ロボット権」が認められたのです。
最初ロボットの反乱に手を焼いた人間は、「心」を抜こうとしましたが、ロボットが反発して、100年もの間、人間対ロボットの戦いが続きました。しかし、人間が譲歩して、規則ができたのです。
その結果、ロボットを買ったのはいいが、そりが合わないので、政府に助けを求める人間が出てきました。円満に解決しないと、相手はロボットですから、暴れたらとんでもないことになるからです。
だから、ゼノールじいさんは、ロボットを作る科学者でしたが、どんなロボットになるか心配でした。
しかし、床に転がったピノールの顔がじっとこちらを見ていたので、思いきって物置から引っぱりだしてきた「心」を入れました(本来、それも違法ですが)。
ピノールはやさしくて、思いやりのあるロボットでした。自分はもう再び生きかえることはないだろうと思っていたのに、ゼノールじいさんが命を吹きこんでくれたので、ゼノールじいさんには心から感謝しました。
だから、奥さんを亡くし、二人の子供は遠いグリーンランドにいるゼノールじいさんのために一生懸命働こうと思ったのです。
半年ほどして、ゼノールじいさんは、「ピノールはほんとにいい子じゃ。今のロボットにはこんな子はいない。でも、少しは休ませてやらなくっちゃ」と考えました。
そうです、未来のロボットは「心」がありますから、見たり聞いたりしたことで、「心」が
豊かになるのです(もちろん、その反対もありますが)。
「ピノールや。おまえが家に来てから、一度も外に出たことがない。それでは、何のために生まれてきたのかわからない」と言いました。
「でも、おじいさんは体が弱っています。もし何かあればたいへんです。働くことが楽しいのです。どうか気になさらないでください」と答えました。
「そこまで言ってくれるのはうれしいが、人生は長い。時にはゆっくりすることも大事じゃよ。そうじゃ、涼しくなったら、散歩に行こうじゃないか」
「わかりました。おじいさんのお供をします。もし疲れたら、ぼくがおんぶしますから」
二人は午後8時に散歩に出ました。まだ48度ありましたが、それ以上遅くいくと、あたりの景色が見えなくなりますから、ゆっくり歩きました。
「何ときれいな景色でしょう!山の向こうに見えるのが海ですね」
「そうじゃ、昔、人間は海で泳いでいたそうじゃが、今そんなことをすれば、一瞬で死んでしまう」
そんなことを話しながら歩いていたとき、細い山道から母娘が出てきました。娘のほうが、ピノールを見るとキャッという声を上げて逃げていきました。
母のほうが、「待ちなさい。何も怖いことはありませんよ」と追いかけていきました。
「あの娘はロボットじゃな。同じロボットを見て逃げるとは」ゼノールじいさんは声を落としました。
「あれだけきれいなロボットもいるのですね」ピノールは、自分を見て逃げたというショックもありましたが、同じロボットなのに人間と区別がつかないロボットもいるということにもショックを受けました。
「すまんなあ。資金がなかったので、おまえをロボット並みにできなかった」
「そんなことは気になさらないでください。生まれたことだけで十分なのですから」
ピノールはそう答えましたが、少し涙が出てきました。