ピノールの一生(19)

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(129)
「ピノールの一生」(19)
しかし、シャチが徐々に弱ってきているのは明らかで、海面に浮いているのがやっとのようでした。
ピノールは昼でも夜でもライトを点滅させて、相棒が気づくようにしました。特に夜は目立って、それに気づいた海の生きものが来ることがありますが仕方ありません。
弱ったシャチを狙うものがいれば、それにライトを浴びせて、警告音を鳴らせば、相手をひるませることができます。
ある日、遠くの海面に何か浮いていました。「あれはなんだろう?ひょっとしたら乗れるかもしれない」と考えました。
「きみ、申しわけないけど、ここをまっすぐ行ってくれないか。何か浮いているんだ。もしぼくがそれに乗ることができれば、お互い助かると思うんだ」
シャチはそちらに向かいました。シャチ本来の動きはできなくなっていましたが、一生懸命泳いでくれました。
「ありがたい。ボートだ。船から落ちたものかもしれないね」ピノールはそれに乗りうつりました。シャチもうれしそうでした。
「神様がくださったのだ。神様ってわかるかい?人間は、自分たちは神様が作ってくれたと思っているそうだ。
つまり、神様は自分の親だ。誰でも、親からやさしくしてくれたらうれしいものだ。きみもわかるだろう?
ぼくはロボットで、ペールじいさんが作ってくれた。だから、ゼペールじいさんがぼくの親であり、神様なんだ。このボートは、つまりはゼペールじいさんがぼくにくれたものだ」
シャチはうなずいて聞いていました。
ピノールは希望がわいてきました。「これできみも元気になれるぞ。そうしたら、みんなが待っているところへ行くんだ。ぼくなら心配ないよ。こうしていれば、いつかは誰かが助けてくれるから」
それから、10日ほど立ちました。シャチも少し元気になりました。しかし、どこにも行こうとしません。
反対にピノールの体は動かなくなってきました。それに全身錆びだらけです。ライトも弱くなってきました。
今度は、シャチがピノールを助けようと思ったのか、体を慣らすためにあちこち泳ぎました。
そして、一人でいるとき、体を動かそうとすると、そのまま海に落ちました。あっと叫びましたが、もはや金属のかたまりになっていたピノールは、どうすることもできず、どんどん落ちていきました。
「いた!」という声がしました。「ピノール、今助けるぞ」相棒です。
相棒がピノールの体を動かしても返事はありません。体をもちあげると、クジラの親子やあのシャチが、ピノールと相棒の下に行って支えてくれました。そして、ようやく海面に出ました。
ボートも残っていました。みんなでその上にピノールを乗せました。相棒は、親のクジラが自分の体を傷つけて体内から出してくれた油をピノールの体に塗って、錆びを取りました。
それから、自分の体から部品を取りだして、ピノールの体に入れました。ピノールの体から、ピーという音が鳴りました。「やったぞ!これで、また生きかえった」
ピノールは目を開きました。そして、「みんなどうしたんだ?」と聞きました。
「ボートを見つけたんで慌ててきたんだ。すると、シャチがいて、何か言うんだ。ひょっとして、きみのことを言っているのかと聞くと、うなずいて海の中を探すようにするのだ。
シャチはきみが海に落ちたので探したがわからなかったようだ。それで、ぼくがボートに移って、クジラの親子とシャチがきみを探してくれたというわけさ」
「そうだったのか。何回も海に落ちるなんて、ぼくほどのおっちょこちょいはいない。ありがとう」
「何を言っている。きみのおかげでみんな助かったんだ。ぼくもきみに助けてもらった。だから、みんな喜んできみを助けたんだ」

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