親子

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~

「親子」
「ママ、お腹すいたよお」
「さっき食べたでしょう。ここの子供たちが帰ってきたときに。
二人とも、すぐ塾に行かなければならなので、いつも短い間ゲームに夢中になるでしょ。そのとき、たっぷり食べられたんじゃないの」
「でも、今日は、夏期講習とかいって、早く行ったものだから、あんまり時間がなかったんだよ」
「ちょっと辛抱しなさい。もうすぐ、ここのご主人が帰ってくるから。
今日は金曜日でしょ。必ず飲んできているはずよ。アルコールは、私たちの食欲をそそるわ。
それに、ご主人、血液型はO型で、汗かきなんだから、これ以上のごちそうはないわ。
でも、他の連中もやってくるから、ご主人に気づかれないように気をつけるのよ」
「わーい、楽しみだなあ」
「やれやれ、おまえったら。ここのご主人、几帳面な性格なので、週末にお酒を飲んで帰宅しても、今週の仕事をきっちり整理する習慣があるわ。
それで、ご主人がパソコンに向っているときに、みんな食事に取りかかるよ。
でも、ママは、ちゃんとご主人の秘密を知っているの。ご主人の体がパソコンの方に傾くときがあるから、そのときに食事をしなさい」
「どうして?」
「おまえにはまだ早過ぎるけど、ご主人も男。仕事の合間に、ちょっとHなものを見ることがあるの。
ニンゲンは、自分の奥様と同じ体をしているのに、若いオンナのほうがいいようよ。反応がちがうからかしら。まあ、私ったら。
とにかく、そのときは、それに夢中で他のことは気がつかないの。そのときにご主人の足首や手首のところでゆっくりお食事できるわ。
もしおまえが食事をしているときに、『何かいるぞ』となったら、ママ、パソコンのモニターの前にふらふら出ていって、すぐに後ろに隠れるから、その間に逃げなさい。
ニンゲンは、私たちが、パッといなくなるのが、いまいましくてたまらないようよ。
でも、ママは、ご主人のたくましくて毛深い足がたまらないわ」
「ママ、今インタホーンが鳴ったよ」
「タカシ、ちょっと待ちなさい。『慌てる乞食は貰いが少ない』って言うでしょ。最近言わないかしら。
ご主人、今から食事をするから。宮沢賢治の『注文の多い料理店』は、いろいろ注文するけど、私たちは待っていればいいのよ。料理が、自分で味つけしてくれるの。考えてみたら、この世で、こんなすばらしいことってある?
中国のえらい人が、『衣食足りて礼節を知る』って言っているけど、私たちは、衣食住とも何の心配もないの。いつも神様に感謝していただくのよ」
「先生も、そう言っていた」
「聞くところによると、ニンゲンはたいへんなようよ。食べるものがなくなるし、それにだんだん暑くなってきているそうよ。
ニンゲンに生まれたら、絶対こんな楽しい生活できないから。ご主人の食事も終ったようね。お風呂に入ってから、パソコンに向うわよ。
あら、何かしら?ご主人、また蚊取り器の新製品を買ってきているようね。でも、最近のは、私たちを殺すというより、寄せつけなくするだけのものだから安心だわ。
強力なものを作れば、ペットにもニンゲンにも害が出るから。
おや、ご主人、お風呂で歌を歌っているわ。仕事が順調だったみたいね。
それは、私たちにも好都合。活きのいい食事が、ご主人の血管をどんどん流れている証拠。
タカシ、タカシ。あら、行っちゃった。暗いところで待っているのよ。
私も、後でたっぷりいただきましょう」

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