お梅

   

「今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(182)
「お梅」
お梅が目を覚ますと、鳥の鳴き声がします。いや、鳥の鳴き声で目を覚ましたと言うほうが正しいかもしれません。
とにかく、その声はうるさくはないのですが、なんだか楽しそうです。
お梅も気分がよくなってきました。数日前からひどい風邪だったのですが、世話をしてくれているおばあさんが薬草などを飲ませてくれたので熱はほとんどひいたようです。
鳥の鳴き声は止みそうにありません。数も増えてきているようです。
それに、障子に映る光もいつもより明るいようです。お梅は外が気になって、布団から出て障子をあけました。
何と大雪です。自分の身長ぐらいまで積もっています。それに、陽の光が当たって目を開けておれないほどまぶしいのです。太いつららが屋根からぶらさがっています。
「鳥も喜んでいるのね。夕べ寒かったのは風邪のせいだけではなく、雪が降る準備だったのかしら。そういえば、雨戸ががたがた言っていたわ」お梅は体も心も軽くなってきました。
そして、おばあさんを呼びに囲炉裏のところに行きました。冬はいつもそこでごはんを作ったり、藁(わら)で草履(ぞうり)を作ったりしているからです。
でも、おばあさんはいません。「どこに行ったのかしら?わかった!おばあさんも雪で遊びたかったのだわ」
そう思っていると、おばあさんが帰ってきました。「おばあさん。どこへ行っていたの?」
「野菜を取りに畑へいっておった。どうじゃ、気分は?」
「少しふらふらするけど風邪は治ったようよ。ごはんを食べたら外で遊んでくる」
「おうちにいなさい。まだ風邪が残っているのじゃから」
「大丈夫よ。明日から今まで以上に仕事をするから今日は遊んでもいい」
「困った子じゃ。寒くなったらすぐに帰ってこい」
お梅はおばあさんが作ってくれた温かいごはんを急いで食べると、おばあさんがお梅のために作ってくれた「かんじき」を履いて外に出ました。
おばあさんは、体が冷えたときのために、持ち歩きできる火鉢も用意してくれました。
お梅の両親は、3才のとき、病気で相次ぎ死んでしまいました。それ以来、おばあさんに育てられています。
その頃は毎日泣いてばかりでしたが、おばあさんはお梅に家の仕事をさせて、仕事がないときは寺小屋に行かせるようにしました。
それで、かなり元気が出てきましたが、それでも一人でいるときは寂しくてたまらないようです。
しかし、近所の子供が呼びに来ても行こうとしません。近所の子供には親がいるのに自分にはと思うのじゃろ。もう少し時間がかかると思ってお梅のすることを黙って見るようにしていました。
さて、外に出たお梅はあたりの風景を見ました。いつもとは全く違います。
畑も山も真っ白のお化粧をしているようです。だんだん楽しくなってきました。転げながらも山のほうにどんどん歩いていきました。
山の前には野原が広がっています。遠くで何か動いています。「あれは何だろう?」お梅は目を凝らしてみました。「うさぎだ!うさぎも楽しいのだ」お梅はそちらに向かって走りました。しかし、うさぎはぴょんぴょん跳ねてどこかに姿を消しました。
ときどき山のほうから大きな音がします。そちらを見ると、雪が枝から落ちているようです。
もうすぐ山道に着きます。しかし、そのまま山に行くべきかどうか考えました。
「どこも真っ白だわ。もし道に迷ったらたいへん。おばあさんに心配かけられない」お梅はそう考えて、山道の近くに洞穴があるのを思いだしました。
「おばあさんがせっかく火鉢を持たしてくれたのだから、そこで暖まりましょう。そして、お昼には帰らなくっちゃ」お梅はそう決めて洞穴を探しました。
そこはお梅が悲しくなると一人で泣く場所です。しかし、なかなか見つかりません。雪で枝が垂れ下がっていて入り口を隠していたのです。
ようやく穴を見つけて入りました。「やれやれ」と思ったとき、奥で何か動く音がしました。

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