お嬢様の策略

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(32)
「お嬢様の策略」
「宗助、おまえに頼みがあります」お茶を運んできた宗助に、その家のお嬢様が言いました。
宗助は、「はい、何でございましょう」と二つ返事で答えました。大好きなお嬢様が、用事を言いつけてくださるのですから、うれしくないはずがありません。
「それでは、誰かいないか外を見てから、障子を閉めておくれ」
宗助は、いつも笑顔のお嬢様とちがって、何か思いつめているような表情が気になりましたが、すぐに庭や廊下を確かめてから、障子を閉めました。
お嬢様は、宗助があらためてすわるのを見てから、ゆっくり話しはじめました。
「宗助、今から言うことは絶対口外してなりませぬ。守れますか?」
「はい、どんなことでも」宗助は緊張して答えました。今まで、お嬢様がこんなふうに話すことはなかったのです。
2年前に相次いで亡くなった旦那さんと奥様は、右も左もわからない宗助を厳しく叱ることはありましたが、早く一人前の奉公人にしようとするためでした。
お陰で、誰よりも早く仕事を覚えたので、取引のあるお店からも、大層褒められるようにうなりました。それで、お嬢様のお世話は宗助にと旦那様がお決めになったのです。
お嬢様は、しばらく宗助を見てから、「おまえは、竹取物語という話を知っていますか?」と聞きました。
「はい、かぐや姫が出てくる話でしょうか」宗助は、少し体の力が抜けたようでした。もっと大事な話しかと思ったのです。
「かぐや姫は、月に帰らなければならないので、身分の高い方が来ても、また、帝が求愛されても全部断わったそうです。しかし、わたしはどこにも行くことができません」
宗助はうなずくことしかできません。
「なぜ、かぐや姫は、月に帰りたがったのか、おまえは知っているか?」
「いや、そんなことは」
「わたしは、この家で生まれ、この家で死んでしまう運命です。しかも、大きな仕事があります」
宗助は黙ってお嬢様を見ました。まだ遊びたいさかりなのに、こんな大店(おおだな)を守っていかなければならなくなったことを考えて、毎日辛い思いをされているのだろうと考えました。
「それは、誰の子供を跡取りにするかです」
「はっ?」話が、どうも妙な方に行くようでした。
「お見合いや、足繁く来る人の中から、わたしが3人の人に絞っているのを、おまえも気づいているだろう」
「はい」
「おまえは誰がいいと思う?」
「わたしにはわかりません」
「遠慮せずに言っておくれ」
宗助は、言うべきか迷いましたが、思いきって言いました。
「それなら、新左衛門様ですか。お侍様ですが、慎みぶかくて、わたしらなどにもお菓子をお持ちくださいます」
「お侍を辞めて、店を守るとおっしゃってくださるが、少し頼りないような気がします」
「はい」
「2番目は?」
「安之助様はいつも明るくて、お話が面白うございます。小遣いも下さいます。あっ、これは誰にも言うなということで」
「おーほっほ。でも、あちこちに女がいるというお噂を聞いています」
「それなら、重政様ですか。お嬢様の前で失礼ですが、よく来られますが、昼間の行灯(あんどん)のような人で、何を考えておられるのかわかりません」
「おまえは人をよく見ている。わたしも、何か聞いても、『別に』とおっしゃるばかり。でも、何か気になるのです」
2人は、それ以上何も言わず黙っていました。
「とにかく、親戚のものも、早く養子をもらえとうるさいので、おまえに頼みたいことがあります」

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