もう一つのクリスマスキャロル(前編)

      2018/07/18

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(208)

「もう一つのクリスマスキャロル」(前編)

エルマは、おばあさんに夕食を食べさせたり、寝巻に着替えさせたりして、ようやく一日の仕事が終わりました。
ときどきおばあさんを診てくれるお医者さんからもらったクッキーがあったのを思いだして、それと紅茶で一息つきながら、窓の外の通りを見ました。
もう暗くなりはじめています。大勢の人が急ぎ足で歩いていますがだんだん影法師になっています。
もうすぐ人の姿はぱたっと消えるでしょう。そして、いつもとちがって、みんなの家から明るいローソクの光とにぎやかな話し声が聞こえるはずです。
まだ洗濯物の片づけがすんでいないことに気づいたエルマは奥の部屋に行きました。それをすませてから、少しの間本を読んで自分のベッドに行きます。これは今日のような特別な日でも変わりません。
別にエルマは介護の仕事をしているのではなく、自分のおばあさんの世話をしているのです。それにエルマは大人ではなく,10才の女の子です。
ママが外出しているので、ママに頼まれてしているのでもなく、毎日、朝から晩までこのような仕事をしています。
そうです。ママはエルマが8才の時に病気で亡くなり、それ以来、パパとおばあさんの3人家族なのです。
では、パパはどうしたのかですって。パパは今仕事でフィンランドの寒い海で魚を取る仕事に行っています。寒いときは他のときより見入りがあります。
この季節には働く人が少なくなるのと一番忙しくなるときだからです。
パパは他のときは家から別の仕事に行きますが、日中は留守なので、そのときでもエルマはおばあさんの世話をしなくてはなりません。
パパはエルマが学校に行けないのを気にしていますが、エルマは、「毎日本を読んでいるから大丈夫。それに教会で教えてもらっているから」と安心させるのです。
日曜日はパパがいるので、おばあさんのことはパパに任せて教会に行きます。牧師さんから話を聞いたり、歌を歌ったり、友だちと遊んだり楽しい時間を過ごします。でも、夕方からはパパとおばあさんの食事を作らなければなりませんが。
今日はクリスマスです。でも、そんなことはエルマには関係ありません。教会に行くこともできません。パパがいないし、いつおばあさんが呼ぶかもしれないからです。
本を読むのが息抜きです。教会の牧師さんが古い本をくれるので、それを毎日読みます。しかし、本に出てくる少女のように、夢を見たり、自由に外で遊んだりできません。
つい自分のことを考えてみるのです。自分はいつまでこんなことをしなければならないのだろうかと思うと涙が出てしまうこともあります。よその家では今頃は・・・。
クリスマスなんてなかったらいいのにとさえ思ってしまいましたが、それは神様に対して失礼だわとすぐに考えなおして、また本に戻りました。
しかし、本が読みづらくなってきました。ローソクがほとんどなくなってきたからです。ローソクも節約しなければなりません。
ローソクを消して、寝る前に窓辺に行きました。すると、外は何だか明るいのです。雪が降っていたのです。それもまわりが見えないほど激しく降っています。
その様子をじっと見ていると、自分がどんどん上に登っていくように感じられました。
そうそう。雨の時でもこんなことがあるわ。このままどこまでも上に行けばいいのにと思いますが、目をぐっと開ければ元に戻ります。
エルマは今日もそうして、部屋の奥に行きました。しかし、椅子にすわっても、なんだか変です。ゴオーという音さえします。また窓のそばまで行って様子を見ると、まだものすごい勢いで登っているのです。
「どうしたの!」エルマは倒れないように窓枠に掴まりました。
「クリスマスなんてなかったらいいのにと思ったから、神様がお怒りになったのだわ。どうか許してください」と叫びました。
しかし、さらに勢いを増して上に上がっていきます。やがて外は明るくなったかと思うと、太陽がぱっと差しこんできました。その光が目に入ったとき、エルマはその場に崩れました。

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