雲の上の物語(9)
今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとはヘンな童話100選」の(27)
「雲の上の物語」(9)
「えっ!」チュー吉は思わず叫びました。
「きみたちを空にお連れします」黒い傘が平然と答えました。
「そんなことできないよ」誰かが聞きました。
「大丈夫。きみらの長いしっぽをぼくらの先に巻きつけておけば落ちることはないよ。
ただ、弱虫は止めておいたほうがいい」ビニール傘もからかうように言いました。
それは、チュー吉たちの負けず嫌いを刺激しました。しかし、今まで言ったことのない空
に行けるのだろうか。
「チュー助、そんなことできるか?」チュー吉は小さな声で聞きました。
「理論上はできるだろうが」チュー助も少し自信がありません。
「おもしろそうだ。行こう」チュー作がみんなを促しました。
「確かに、東京にスカイツリーというのができて大人気だそうだ」チュー助は、最新のニュースを話しました。
「知ってる。テレビで見た。ぼくも、買物袋か何かに隠れて、634メートルからの景色を楽しみたいと思っていたよ」チュー造が得意そうに言いました。
「展望台は350メートルと450メートルだよ」チュー助が訂正すると、「何、そこから先っぽまでよじのぼるよ。ワイルドだろう~」とチュー造は負けていません。
「チュー造はすぐに調子に乗るからな。それじゃ、お願いします」チュー吉は、4つの傘に頭を下げました。
「それじゃあ、行きましょうか」黒い傘が応じました。
ネズミは6匹で、傘は4つなので、頑丈な黒い傘と桜材の傘に2匹ずつ、そして、花柄の傘とビニール傘に1匹ずつ乗ることにしました。
みんな松の木に登り、傘の上に飛びおりました。そして、長いしっぽを先にしっかり巻きました。
「さあ、行きますよ」黒い傘は声をかけました。
少し風が吹いたので、ふわふわと浮きました。「わあ、降ろしてくれ!気持ち悪い」チュー吉と黒い傘の上にいた一番小さいチュー次郎が叫びました。
「大丈夫。少し辛抱すればおさまるから」チュー吉はそう言いましたが、本人も頭がくらくらしてきました。
みんなも、そうだったのでしょう。はしゃいでいたチュー作やチュー造ももじっと我慢していました。
傘はゆっくり上に上がりました。「見ろ!」チュー助の声が聞こえました。
その声でゆっくり目を開けると、眼下にはすばらしい景色が広がっていました。
「すばらしい景色だ。あの青いものは何だろう?」「あれは海だ。塩水でできている」
「海の向こうには何があるの?」「アメリカという国だよ」
「その先はどこ?」「また、ここに戻ってくるよ。地球は丸いから」誰かが何かを聞くと、チュー助が答えました。
その時、風がピューと吹きました。傘は、ネズミたちの「助けてくれー」という声とともに、みるみる高く上っていきました。
「もう大丈夫ですよ」黒い傘の声でみんな気がつきました。気絶していたのです。
「さっきより高いところよ」花柄の傘が言いました。
ほんとにすごい風景です。怖がっていたチュー次郎も見とれているようです。ここまで高くなると、怖いと言う感覚はなくなるのでしょうか。
「ここはどのくらいの高さですか」チュー助が聞きました。
「多分1000メートルはあるでしょう」黒い傘が答えました。
「スカイツリーの先っぽより高い。人間がネズミのように見える」
「何なら、10000メートルの成層圏の端まで行きましょうか」
「それは遠慮します。ぼくらも哺乳類だから、凍えてしまいます」
「そうですね。それじゃ、下りますよ」
ネズミも傘も余裕が出てきて、ネズミは、「少し右に行って」とかいうものがいるし、傘も、ダンスをしながら下りていきました。
そのとき、ドンいう音がしました。下を見ると、交通事故が起きているのです。
「早く助けに行こう」チュー作が叫びました。
「あはは、行かなくていいよ。救急車やパトカーが来るから」チュー吉が言いました。
なるほど、5分ぐらいで救急車とパトカーの音が聞こえました。
「すごいな。ぼくらのようにふわふわしているのとは心がけがちがう。下でもう少し話しましょう」