雲の上の物語(10)
今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとはヘンな童話100選」の(28)
「雲の上の物語」(10)
4本の傘は、チュー吉たちを乗せてゆっくり下りました。桜材の柄の傘も、何の事故もなしに下りることができたので、満足そうな表情をしています。
チュー吉たちは、互いのしっぽがクエスチョンマークに固まっているのがおかしくて、大笑いしました。
「すごかったなあ」
「飛行機にもぐりこんだやつはいても、こんな冒険をしたものはいないよなあ」
「ぼくらは、どんなにちっぽけな存在かよくわかった」
「親や兄弟が聞いたらどんなにうらやましく思うだろうな」
みんな興奮が冷めないようで、大きな声で話しました。
興奮が一段落すると、「みなさん、ありがとう」チュー吉はあらためてお礼を言いました。
「夜景もきれいだよ」黒い傘が言いました。
「夜景?」
「町中が光で輝いているのさ。この世のものとは思われないほどきれい。デートにはもってこいだ。恋人同士が空で体を寄せあって、いつまでも見ているよ」
「へえ。見たいなあ」
「OK.。ところで、さっき交通事故が起きたとき、助けにいかなくっちゃと言っていたけど、どういうこと?」
そこで、チュー吉は、仲間がなぜそう言ったかを話しました。
「すごいな。人間を助けて自分たちの評価を上げたいなんて、ぼくらにはまねができないことだ」黒い傘が感心して言いました。
「ほんとだ。きみらはえらい。ぼくらの中には、今までいい目をしてきたくせに、人間に捨てられたと恨み節を言うやつがいる」ビニール傘も同じ意見でした。
「人間に作られたのにね」花柄の傘もつけくわえました。.
「そんなことないよ。ぼくらでも、ミッキーマウスに人気があるのに、モデルとなったぼくらは、なぜこんな嫌われるのかと思っているからね」チュー吉は正直に言いました。
それから、「話はおまえに任せた」というふうにチュー助を見ました。
「みんないろいろな事情があります。人間もそうですよ」チュー助が助け舟を出しました。
「へぇ、そうなの?」花柄の傘が聞きました。
「今見せてもらった風景だって、いつまで続くかわからない時代になっているんです」
「えっ!」
「石油が枯渇し、頼りにしている原発も地震で破壊されるかもしれない。そうなると、ゴーストタウンになる。また、核兵器が爆発すると、地球上には、人はいなくなることだってある」
「そうなると、地球には誰もいなくなるの?」
「最初はそうでしょう。チェイノブイリという原発は大きな事故を起こしたのですが、人間は当分住めないけど、近くに新しい草花が出てきているそうですから、まず植物が生まれるでしょう。そして、動物ではゴキブリですかね」
「私たちは?」
「あなたたちは、工業製品だから、そうなっても死なないですよ。でも、人間がいないから、仲間は増えないかな」
「夜景もなくなるのかあ」花柄の傘はショックを受けたようです。
みんな黙ってしまいました。その場の空気を変えようと、黒い傘が話題を変えました。
「とにかく、今まで、傘立てにいたときは、きみらがちょろちょろしていても、話したことはなかったけど、こんなに気心が通じるとは思いもしなかったよ」
「そうだな。ぼくらには、人間に大事にされているというプライドがあったので、人間が嫌がるものを相手にしなかったかもしれないな」ビニール傘も言いました。
「これからはよろしく」
「お互いなかよくしましょう。これを一期一会といいます」
「どういう意味なの?」
「偶然の出会いを大事にすることですよ。そうすると、自分たちだけでは不可能だったことでも、仲間が増えると可能になるかもしれないとう意味です。元々は茶道から出た言葉のようですが」
「チュー助さんはほんとによく勉強しているのね」
「そうでもないですよ。でも、成功した人の伝記を読むと、みんな一期一会を大事にしています。
ただ、今はネットがあるので簡単に知りあうことができるから、出会いをおろそかにするかもしれませんね。もちろん、人間のことですが」
「それじゃ、今度はディズニーランドへ行こう。ミッキーマウスには複雑な感情があるでしょうが、何かの役に立つかもしれない」桜材の傘も、大きな声で言いました。空で生きていることに自信がついたようです。
「一期一会があるかもしれない」「それにスカイツリーも近いらしいからね」チュー吉たちも大喜びです。ネズミと傘は、再会を約束して別れました。