久保田(2)

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~

「久保田」(2)
久保田は、「なんちゅうことしてくれるねん」という無言の声を、ベンチの同僚からも、球場にいる何万とゆう客からも、テレビを見ている何百万ゆうファンからも聞いとるはずやけど、暗いベンチの中で、帽子を深くかぶって、無骨な顔を正面に見据えて、自分が引きおこしたピンチを見ている。久保田ぐらいになると、「けったくそ悪い」ゆうて、さっさとシャワーを浴びてもええのにな。「あの一球が、真ん中にいってもうた」と反省しているだけかもしれんけど。
プロスポーツの選手は、1シーズンのアベレージが評価される。つまり、時速170キロ投げても、あとがへろへろやったらあかん。200メートルのホームラン打っても、あとが三振ばっかりやったら、試合に出してもらわれへんやろ。とにかく、あきへんことが、プロの第一歩や。
もう一つ大事なアベレージは、ヤジを我慢することやろ。毎日毎日、「アホ、ボケ、死ね」に耐えることは、なかなかや。いっぺん破裂すると、命取りや。
アマでも、慶応の水原茂が、早稲田の応援席から投げられたりんごを投げかえした「りんご事件」が有名やし、昔の選手は、客にやじられて、「お前がやってみ」と捨てぜりふをよう吐いとったな。張本みたいに悪役に徹するのは、実力があったからやろな。
腹の中では、「何が『がんばれ』や。毎日がんばっとるわ。大事なのは、『タニマチ』だけや」ゆうのをこらえて、「ファンのおかげです」と愛想をふるわなあかん。
昔の藤井寺球場のファンのように、「きのう、ミナミで若い娘(こ)と歩いとったやろ。そんなとこで腰使うから打たれへんのや」ゆうようなヤジにも、大笑いの中で耐えんとあかん。
タイガースの片岡の応援歌にも、「関西魂見せてやれ・・・家には、ひのき風呂」とあるから、片岡は、「やめてくれませんか。普通の風呂です」と弁解する始末や。
今評論家している金村も、現役のとき、ファンから、「きのう、大きな冷蔵庫買うたやろ」とヤジられたらしい。「なんで知っとるんやろ」と思うてたら、打たれんかったゆうとった。
プロとゆえば、ぼくらも、おっさんのプロや。せやけど、普通の人間は、面と向かって、ヤジをゆわれることは経験してへん。
悪口を、陰でゆわれるか、悪い評判が立つぐらいやな。それを気にするか、せえへんかで、人生がだいぶ変わる。
ぼくも、小学のとき、親戚から買うてもうたエポック社の野球盤に夢中やった。あるとき、道の向こうから友だちの声が聞こえた。「あいつ、自分に都合のええようにルールを変えるやろ」。中学のときは、ある女の子のパンツに穴があいていると言いふらしているのは、お前やろと、みんながおる教室で、教師にゆわれて、大笑いされた。
皆さん、どっちも誤解ですよ。このままでは終わられへんがな。次回も書くわ。

 -