子ネズミの夢

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~

「ほんとはヘンな童話100選」の(7)
「子ネズミの夢」
「ママ、聞きたいことがあるんだけど」
ネズミのチュー吉は、天井の片隅にある家で、長い尻尾を振りながら忙しそうに家事をしている母親の背中に、思いきって声をかけました。
母親は、今残っている食べ物を確認し、後どのくらいあれば家族8人が腹一杯になれるのかを計算したところでした。
そして、今晩忙しくなりそうなので、早く寝るために藁や紙で作ったベッドを整えてから、「どうしたんだい、チュー吉?」と振りかえりました。
チュー吉は、ママがようやく耳を傾けてくれたので、早口で話しはじめました。
「ママはいつもぼくらに、人間には気をつけろと注意しているよね」
「一体どうしたんだい?」
「人間は、ぼくらが食べものを取るので、腹を立てているって」チュー吉は、構わず聞きました。
「そうだよ。仕掛けの中に食べものを入れていることもあるわ」ママも、ちゃんと答えはじめました。
「最近では、フツーの仕掛けではなく、無造作に食べものを置くということもしているわね。それを食べると、だんだん弱っていって、最後には死んでしまうの。
おまえの遊び相手になってくれたおじさんも、おやつをよくくれたおばさんも、みんなそれで死んでしまったのよ。
だから、簡単に食べものが見つかったときほど注意するのよと毎日のように言っているわ。
でも、それがどうしたの?」
「前から気になっていたんだけど、どの子供の部屋に入っても、ぼくらによく似た人形がいっぱいあるんだ。大きさも、ぼくらぐらいから犬ぐらい大きいものもある。この前友だちとあちこち行ったんだけど、どう見てもぼくらがモデルだと話したんだ。
中には、枕のそばにおいている子供もいる。そして、寝ながら楽しそうに笑っているんだ。ぼくらが食べものを腹一杯食べたときのようにね」
「それは、ママも何回も見たことがあるわ」
「人間は、特に人間の子供は、ほんとはぼくらが好きなじゃないかと、ママに聞きたかったんだ」
「そんなことないわよ。ママが子供のとき、毎日人間の子供に追いかけられたわ。
わたしたちの尻尾を役場にもっていくと、おこづかいがもらえるとか言っていたね。
今はそんなことないけど、大人でも、子供でも、人間は、私たちが大嫌いなことに変わりないわ。
もっとも、ゴキブリよりましだけどね。ゴキブリは、人間が絶滅すると、次の地球の主人公になると言われているから、ゴキブリにやきもちをやいているかもしれないけどね」
「ママは、いつもみんなとなかよくしなさいと言っているから、人形より、生きているぼくらのほうが枕の横にいたほうが、子供は喜ぶのではないかと思っただけなんだ」
「そんなばかな真似はしないで。人間より、最近はわたしたちを追いかけたりしないネコと遊べばいいよ。ごちそうをくれるかもしれないから。
それより、今晩は急がしいので、早くパパやお兄ちゃんのところでお昼寝なさい」
チュー吉は、言われたとおり寝室へ行きました。
きみの部屋にほんとのネズミがいたら、そして、何か言いたそうにしていたら、大声を出して家族を呼んだりしないでください。
友だちになってくださいと言っているかもしれないし、それがいやでも、せめて食べもののお礼だけでも聞いてやってください。ミッキーマウスへの愛情の1000分の1の愛情をもって。

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