神様の羽

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(134)
「神様の羽」
まだ神様が人間を作ったころのお話です。ある町にアドニスという青年がいました。彼は運動能力に優れていて、近所では誰も勝てません。
あるとき、国で競技大会が開かれることになりました。州ごとに競うのです。彼が住んでいる州の州知事は迷うことなく彼を最初に選びました。これで、州の威信は高まると思いました。
当時は一つの競技だけでなく、走り、泳ぐ、投げる、戦うという四つの競技の得点で誰が一番かというものです。
彼がいる州は、団体戦でも、個人戦でも優勝しました。もちろん、彼が個人でも一番でした。
それを見ていた神様はアドニスを呼びました。「おまえ天性の運動能力を持っているだけでなく、克己心、不断の努力で今の力を得たと聞いている。すばらしい青年じゃ」と褒めました。
「いいえ、神様。私はまだまだ未熟です。私にはまだできないものがあります」と答えました。
「できないもの?言ってみろ」
「はい。空を飛ぶことです。空を飛ぼうと崖から空に向かって飛びだすのですが、そのまま落ちてしまいます。
以前よりは少しは距離が伸びたかと思いますが、結局はそのまま落ちてしまいます。そのとき、空を飛ぶ鳥が私を笑います。それが悔しくてたまりません」
「アドニス。それは仕方がない」
「どうしてですか?」
「それはおまえが人間だからじゃ。わしは、おまえたち人間を飛ぶようにしなかった。
そのかわり、魚のように泳ぎ、馬のように走れるようにしてやったじゃないか」
「神様。お言葉ですが、あのように小さなものでも空を飛んでいます。それなのに、私のように体が大きくて、しかも訓練しているのに空を飛ぶことができないのはどう考えても理不尽です」
「理不尽とな!まあよい。とにかく、今日はおまえの優勝を祝って何かやろう。何でも言ってみろ」
「ありがとうございます。それなら、空を飛べるようにしてください」
「まだ言うか!わかった。考えておく」神様は家来とともに、空に吸いこまれるように空に消えました。「神様も空を飛べるのに」アドニスは、羨ましそうに見あげていました。
「あの小僧。生意気でざいますね。私たちと同じように空を飛びたいなんて」
「可能性という種を植えつけたのじゃから、そう思うのも仕方がない。ほしいものは何でもやると言ったのもわしじゃ」
数日後、家来がアドニスを訪れました。アドニスは、相変わらず崖から飛び出して、空を飛ぶ練習をしていました。
「神様からのお祝いだ。そんな練習を何回しても飛ぶことはできないから、これをつけて飛んでみろ」
アドニスは家来にお礼を言って、白い鳥の羽のようなものをつけて崖から飛び出しました。すると、体がふわっと浮きました。そして、力を入れるとどこまでも飛ぶことができました。回転でも、宙返りでも思うままです。
ようやく下りてきアドニスに、「さすがにすばらしい運動能力だ。すぐに鳥のようにように飛べるとは!」家来は感心しました。
「ただし、これはおまえの体に合わせて作った特注品である。他人に貸してはならないし、また、悪いことに使えば、途中で羽が折れて落ちてしまうぞ。おまえならそんことはしないと思うが」家来はそういうと帰っていきました。
「とりあえずこれで飛んでみよう」と、さらに練習して、今では空を飛ぶ鳥たちもアドニスの飛ぶ姿をうっとりと見るようになりました。
その姿を見た友だちは、「おれたちにもそれを貸してくれないか」と言いました。
神様は他人に貸してはならぬとおっしゃっていたので、「それはできない」と断りました。
「それなら、ちょっと見せてくれ。自分たちで作るから」と言いました。
アドニスは認めました。しばらくして、多くの友だちも飛ぶようになりました。それを売る商売人まで出てきて、今では、空一面真っ黒になるほど人間が飛んでいます。
それを聞いた神様は大いに怒り、すると、羽はぽっきり折れて、アドニスは転落してしまいました。すると、真似をして作った羽も飛ぶことができなくなりました。
幸いアドニスのけがは致命傷でなかったのですが、今では走ることも泳ぐこともできなくなり、ただ杖をついてゆっくり歩くことしかできなくなりました。
ときどきどうして神様が怒ったのか考えることがありますが、まったくわかりませんでした。

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