林にて
今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(88)
「林にて」
一匹のアマガエルが林を通りすぎようとしていました。遠くから楽しそうな仲間の声が聞こえたので声をかけると、「遊びに来ないか」と誘われたのでそっちへ行っていたのですが、その帰りでした。
早く帰らないと家族や友だちが心配するだろうと急いでいると、「おい、待て!」という声がしました。年配の男の声のようです。しかし、聞き覚えがありません。
その声を聞いたのはジャンプしているときだったので、その声で力を抜け、思わずひっくりかえってしまいました。
アマガエルは、あわてて体を起こしましたが、自分を呼んだのはないだろうと思い直して、先を急ぐことにしました。
しかし、「待てと言っているだろう」と先ほどより怒った声が聞こえました。
自分に言っていることはわかったのですが、誰が呼んでいるのかはわかりません。
そこで、「誰だ、呼んだのは?」と叫んで、あたりを見わたしました。それらしきものはいません。
「わしだ!ここにいる。出目金のような眼をしていて見えないのか」と少しからかったような声が聞こえました。とりあえずアマガエルが気づいたので安心したようです。
このまま先を急ごうかと思いましたが、誰かぐらいは見てやろうと、声が聞こえるほうをもう一度探しました。
何気なく地面を見ると、目と目があったような気がしました。
それは、「ようやくわかったな」と少し満足そうに言いました。
アマガエルは、その顔を見てびっくりしてしまいました。「何だ、枯葉か!」
「枯葉で悪かったな」不機嫌になりました。
「そう意味じゃないんだ。まさか枯葉がしゃべるとは思わなかっただけなんだ」
「つい本音が出たってわけか。いつもわしらの真似をするくせに」
「真似?」
「そうじゃないか。自分の身を守るために、わしらが青いときは青くなり、茶色になると茶色になる。姑息なことをしてくれるじゃないか!」
「失礼なことを言うな!枯葉のくせに。いや、それは謝る」
「ほら見ろ。おまえらごときの役立たずの真似なんかするもんかと言いたいのだろう?」
アマガエルは機先を制せられましたようです。「どこにもあるからだよ」と答えました。
また、ここを通るときに、無数の枯葉に仕返しをされると困るから、これ以上逆らわないことにしました。
「それはわしも認める。わしらの仲間は、天地を埋めつくしているからな。別にめずらしいもんじゃない。
そして、わしらを生ぜしめる木のために働き、時が過ぎればその木から離れる。
しかし、今度は、さらに大きな存在、その木やおまえたちを生かす存在のために働く・・・」
アマガエルは、メンドクセー枯葉と思いましたが、「他人の役に立ってけっこうなことだ」とからかいました。
「自らおのれの生について悩まなくても、人並みの生を送ることができる。それはそれでめでたいことだ。
であるが、自分の命が消えようとしるとき、一つの存在として自分をどうとらえるかは別問題だ。わかるか?」
「さっぱりわからん。それじゃ、行くぜ」
「まあ、待て。つまり、生と死を同じものと考える。生と死は、コインのように裏表の関係とよく言われるが、そうではなくて、生と死を全く同じものとして考えるのだ。生つまり死であって、死つまり生として」
「もういいか」
「生きていて、むなしいことはないか」枯葉はさらに続けました。
アマガエルは、一緒に遊んでいた友だちが突然大きな鳥に連れさられたときのことを思いだしました。その光景を思いだしたくなかったので、あちこちで遊ぶようになったのです。
「実は・・・」と言いかけたとき、突然、風が吹き、その枯葉は風とともにどこかへ飛んでいきました。