羽
今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(78)
「羽」
昔のことです。それも大昔で、まだ神様と人間の区別がつかない、いや、神がようやく陸や空を作りあげて、何か動くものがほしいなと思うようになった時代のことです。
しかし、どんなものを作ったらいいのかすぐにすぐに思いつかなかったので、とりあえず自分に似た姿形のものを作ってみました。
神様の背中には羽が生えていたので、自由に飛ぶことができましたが、せっかく陸と海を作ったのだから、人間が飛んでばかりいては作った甲斐がない、さりとて、陸といえどもほとんどが高い山ばかりなので、少しは飛べなくては不自由するだろうと考えて、羽が取り外しできるようにしました。
こうして、人間が生まれたのです。それから数百年人間の様子を見ましたが、楽しいことや苦しいことがあっても、おおむね、生まれてきてよかったと思っているようで、神様は、最初の出来にしてはまずまずじゃないかと自画自賛しました。
さらに数千年が立ちました。人口が増えてきた結果、けんかをしたり、泥棒をするものが出てきました。
そこで、人間の代表たちは神様に相談しました。しかし、神様は、どうするべきか自分たちで考えるように言いました。
人間の代表たちは、長い間話しあって、罪を犯した者には裁判をすることにしました。裁判長は代表の中から選びました。有罪になれば、反省するまで羽を預かることにしました。羽がないと自由に動けませんから、罪を犯さないだろうと考えたのです。
オルペウスという厄介な少年がいました。3,4才の頃から、近所の家から物を盗んだり、追剥(おいはぎ)をしたりしました。
両親も困り果て、裁判長に相談しました。このままでは、大人になれば取りかえしのつかないことをしてしまうかもしれないので、自由に飛びまわるための羽をしばらくの間使わせないようにしようと提案しました。羽は裁判長が1年間あずかることになりました。
しかし、オルペウスには、何十という山を越えた町にペルセポネという美しい娘に恋をしていました。実は、ペルセポネにプレゼントするために、人の物を取っていたのです。
オルペウスは、こうなった以上、ペルセポネには事情を話さなければと思いました。
誰かに頼んでもいいが、しかし、そいつが、ペルセポネを取ってしまうのではないかと心配になりました。
そこで、友だちに、1日だけ羽を貸してくれないか頼みました。最初、友だちは断りました。羽を人に貸したのがわかると、3年間羽が没収される規則があるからです。
しかし、夜の間に行き、朝早く帰ってくるからと何回も頼み、ようやく借りることができました。
その晩、ペルセポネの元に急いでいきました。オルペウスの悪い噂はその町にも届いていましたので、両親はこれで娘をあきらめてくれればいいと内心思っていましたが、逆に、ペルセポネは、こんなことになっても会いにきてくれたオルペウスが今まで以上に好きになりました。
羽を返して家で寝ていると、オルペウスを呼びにきた者がいました。町の役人です。
裁判所に行くといくと、裁判長が、「おまえは、夕べどこにいた?おまえに似た者が空を飛んでいたという知らせがあったのじゃ」と聞きました。
「私はどこにも行っていません。ずっと家にいました」
「そうだろうな。今は大事なときだから、そんなことをするわけがないと考えておった。しかし、知らせがほんとかどうか調べなければならぬ。もし、知らせが正しければ、もう羽は戻らぬと覚悟せい」裁判長は大きな声を出しました。
すると、オルペウスの顔はみるみる真っ青になり、体はがたがた震えました。そして、友だちの羽を黙って使い、娘の元に行ったと泣きながら話しました。
裁判長は、孫のようなオルペウスに、「正直に言ってくれたな。ただし、判決をないがしろにしたことは許されない。それで、没収期間はさらに半年間の延長にする」
つまり、1年半の間、羽のない生活をしなければならないのですが、友だちは不問されたのでほっとしました。これからおとなしくしようと決めました。
1か月ほど親の手伝いをしていましたが、ペルセポネの心が変わっていないかだんだん心配になってきました。夜も寝られないほど苦しくなってきました。
ある日、病気で寝ている別の友だちの家に忍びこんで、羽を盗みました。どうせしばらく使わないだろうし、今度は反対側に行き、海に出てからペルセポネの家に向かおうと決めました。ペルセポネネは笑顔で迎えてくれました。
朝早く羽を返してから寝ていると、また町の役人が来ました。今度は裁判所でなく、牢屋に入れられました。
裁判長は、神様にいる場所に行きました。そして、オルペウスのことを相談しました。
「人生で一番大事なものがわからない若者にはどうしたらいいのかわかりません。
今後羽を渡さないことは簡単ですが、将来がある若者ですし・・・」さすがの裁判長も困ってしまったようです。
「オルペウスのことじゃな。ただ、これは若者特有のものではなく、老人でも自分が一番大事に思うものが世間一般とちがうことが往々にある」
「それならどうすれば?」
「時間がかかる。人間を作りなおすのは簡単じゃが、せっかく今までうまくいったのだから、もう少し様子を見たいのじゃ。
人間の努力とわしの辛抱のどちらが先に勝つか勝負じゃ。オルペウスのことはおまえに任せる」神様はそう言うと、どこかへ飛んでいきました。