二人の人生
今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(148)
「二人の人生」
昔々、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。子供は3人いましたが、みんな都に行き、二人はのんびり余生を送っていました。
山の頂(いただき)にはまだ雪が残っていましたが、冬の寒さもようやく終わりかけていました。
朝は少し寒いですが、昼になると心地よい春風が吹き、あちこちに咲きだした花も気持ちよさそうに風に揺れています。
おじいさんは、朝の野良仕事の後、お昼ご飯を食べると、のんびりします。
おばあさんも、食事の後片付けが終わると、繕いごとをするまで、しばらくゆっくりできます。
おじいさんは、「おばあさん。ちょっと話が」と声をかけました。
おじいさんはいつもは一人で昼寝をするので、おばあさんは少し驚いて、「はい。はい。なんでしょう?何か手伝うのですか」と聞きました。
「いやいや。まだ土起こしができておらん。それがすんだら頼むことにする」
「それなら、どんな用事でしょうか?」おばあさんはおじいさんの顔を見ました。
おじいさんもおばあさんの顔を見ました。そして、「雪が解けて、新しい命が育っているのを見ていると、少し考えが浮かんでな」と言いました。
「季節は廻っていますものね」
「わしらが夫婦(めおと)になってから長い年月が立ったものじゃな」
「いやですよ、おじいさん。熱でもありますか」おばあさんは照れたように言いました。
「いやいや。わしも年を取った。それはおばあさんも変わらないがな。
いつまで生きでいるかわからないから、今までのことを振りかえっているのじゃよ」
「わたしも、ときどきそうします」
「そうか。それなら、わしの思いをわかってくれるじゃろ」
「それで、どんなことを思うのですか?」
「それじゃ、正直に言おう。わしは今まで何もしてこなかった」おじいさんは、またおばあさんの顔を見ました。
おばあさんはうなずきました。しばらくしてから、「実は私も同じことを考えていました」
「でも、おばあさんは、3人の子供を立派に育ってくれたし、嫌な顔をせずにわしの世話をしてくれているじゃないか。それなら、それは自分のしたいことではなかったのか」
「滅相もございません。子供たちが大きくなり、おじいさんが健康で働いているのを見るのは楽しゅうございます」
「それなら?」
「おじいさんが言ったように、せっかく生まれたのですから、自分がしたいものは何だったのかと思うだけですよ」
「おばあさんもわしと同じことを考えていたのじゃな」
「そうですね」
「それじゃ、話が早い」
「どうするのですか?」
「明日から、それぞれ別の生き方をしようじゃないか」
「それがいいかもしれませんね」
「話はまとまった」二人は、明日から新しい人生をはじめるために、それぞれ家を出ることにしました。
そして、最後の仕事として、いつもとは反対のことをすることにしました。
それで、おじいさんは川へ洗濯に、おばあさんは山へ芝刈りにいきましたとさ。