チュー吉たちの冒険二章1
「今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「チュー吉たちの冒険」二章1
「何だい、その恰好は?」チュー吉が驚きました。チュー次郎が鼻と耳を何かで黒くしてあらわれたからです。他の者も、「分かったぞ!ミッキーマウスの真似だろう?」、「趣味悪いなあ」などと大笑いします。
チュー次郎も笑いながら、「昨日ぼくらの子供を連れてこの家を案内してやったんだ。
ここの女の子の部屋に行ったとき、テレビでミッキーマウスをやっていたんだ。友だちも二人来ていて、三人でテレビを見ながら大騒ぎさ。
ぼくらの子供もそれを見て興奮してきて、チュー、チューと叫ぶからひやひやしたが女の子たちは気づかなかった。最後まで楽しんだよ」
「それでか。うちの子供はずっと変な歌を歌っていたなあ」チュー五郎が言いました。
「それで、おまえも興奮してそんな恰好をしているのかい?」チュー八が聞きました。
「まあな。子供たちを楽しませてやろうと思って」チュー次郎は少し照れたように言いました。
「おれたちは、ミッキーマウスが世界的人気者なのにモデルであるおれたちネズミがどうして忌み嫌われるのか合点がいかないから、それを是正するためにこうして旅に出ているんだぜ。おまえがおれたちの子供を大事にしてくれるのはわかるが少しやりすぎじゃないか?」チュー太が念を押しましたがそう怒っていません。
「確かに。おれたちは相変わらず屋根裏を渡り歩いているもんなあ」チュー次郎は素直に認めました。
「チュー助はどう思う?」チュー太が何でも知っているチュー助に振りました。
「たとえおれたちネズミの子供でもミッキーマウスが好きになったのなら、大人が止める法はない。
それに、ミッキーマウスはディズニーという人間が人間の子供たちのために作ったものだから通じるものがあるかもしれないね。この冒険の発端は最初は僻(ひが)み根性だったかもしれないが」
それを聞いて、この冒険を思いついたチュー吉が、「それは率直に謝るよ。当時は毎日腹が立って仕方なかった。この差は何だ!とね。
でも、チュー助からいろいろ教えてもらって世の中には仕方がないことがあるということが分かった。
それを受け入れたところから、自分たちの進むべき道が見つかると思うようになった。
それならすぐにやめたほうがいいと思うかもしれないが、おれたちも大人になって、子供もできた。
困っている人間を助けると必ず人間はおれたちを認めてくれるようになると信じてきたことは素晴らしいことだと思う」
「そうだ!おれたちはもう100人以上の年寄の人間をつけてきたもんなあ」
チュー次郎が応じた。
最近は、それぞれ家族がいるので別行動することが多いが、時たま集まると、昔に戻って青臭い議論をするのがみんなの楽しみだった。
「ところで、最近は人間も大変だな」
「北朝鮮という鬼っ子に振りまわされている。今にも核戦争が始まるかと思ったがお互い様子を見ている」
「『核兵器を持つな』というほうが何千発も持っていては説得力ないよ。まず自分から捨ててみろというんだよ」
「それが人間の限界だ」
「もし核戦争が起きたら、人間は絶滅するとして、誰が残るのだ?」
「ゴキブリと言われている」
「ゴキブリか。あいつらが地球の主人公か。あの嫌われ者が地球の主人公か。
おれたちネズミはどうなるのだろうか?」チュー八がそう聞いたとき、妙な気配がしました。みんなはあたりを見ました。臭いがします。下から真っ黒な煙がどんどん上がってきました。
「火事だ!みんな逃げよう」チュー吉の声でみんな下に走りだしました。
下に下りると、耐えられないほど熱くなってきました。煙の中に炎が見えました。
チュー吉がいつも使っている勝手口に行きましたが、閉まって外に出られません。その時、勝手口が開いて、「誰かいないか!」という大きな声がしました。