チュー吉たちの冒険(8)
2016/11/05
今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとはヘンな童話100選」の(17)
「チュー吉たちの挑戦」
前回、チュー吉たちは、夜中にベランダに出された子供を助けるために、子供のまわりをチューチュー鳴きながら踊りました。
案の定、野良ネコが集まってきて、ウー、ウーと威嚇すると、その声に、近所のイヌが反応をはじめました。
それは、午前3時ごろでしたが、人間も異変を感じ、次々と出てきて、すぐにパトカーがやってきました。チュー吉たちの作戦は見事に成功しました。
数日後、「あの子供はどうなったのだろう?」やさしいチュー太郎が聞きました。
「警察官がベランダに来たのを、屋根から見ただろう?
あの時間は、普通の子供は暖かい布団の中で夢の世界で遊んでいるときだ。それが、寒いベランダで泣いているんだぜ。何が起きているか誰でもわかるさ。親は大目玉を食らったはずだ。
しかも、あのネコが言っていたように、毎日そんなことだったようだから、今頃は、どこかの施設で保護されているよ」大人びたチュー作が解説しました。
「そうだと思う。普通は、実の親でないものがそんなことをするけど、最近は実の親が虐待することもあるようだ。
子供にとっては、それのほうがトラウマになるだろうな」博学のチュー助が補足しました。「えっ!人間がトラやウマになるのか!」一番小さいチュー次郎が叫びました。
「ちがうよ。心の傷をトラウマというんだ。もっとも、最近の人間は、トラウマという言葉を安易に使うけどね」
「ところで、施設ってなんなの?」またチュー次郎が聞きました。
「親がいない子供や、事情あって育てられない親の子供が集まっている場所だ。そこで、友だちができて、ぼくらのことを話すと、ぼくらの人気がネズミ算式に増えるかもしれないぞ」
「ネズミ算?」チュー次郎は好奇心があります。
チュー助は、最初の夫婦が、12匹の子供を産み、それぞれが夫婦となり、また12匹の子供を産み、またまたその子供がと続くと、1年後には、27682574402匹になるという、例の話を説明しました。
頭がこんがらかったチュー次郎を見て、「まあ、ぼくらの評判がどんどん広がっていくという例えだよ」と慰めました。
「今日(きょうび)、ぼくらだって、自分たちのレジャーを楽しみたいので、のべつ幕なしに子供を産むことなんかないからね」
しかし、チュー次郎は、兄のチュー太郎を見て、「お兄ちゃん、今頃ぼくらが知らない弟や妹がいっぱい生まれているのだろうか」と泣きだしそうな顔で言いました。
「とにかく作戦は成功だった。ぼくたちはちっぽけなんだから、これからも、ネコやイヌ、鳥、さらに、人間も使って作繊を進めよう」チュー吉は、話題を変えました。
「そうだ、チュー、チュー、チュー」みんなは、それに呼応して声を上げました。
「ただ、世の中は、昼間起きて、夜寝ている。辛いけど、ぼくたちはそれに合わななければならない」チュー吉は、みんなの士気が高まったときに、気を引き締めることも忘れません。リーダーの素質があるようです。
「どうもおかしい」そのとき、食料当番のチュー造が帰ってきました。
「どうしたんだ?」チュー吉が聞きました。
「食べものを見つけて、一旦引きあげようとしたとき、おばあさんが、うーんと唸って動かなくなったんだ。それまで、テレビの音を大きくして見ていたのに」
「居眠りしたんじゃないか。としよりは、テレビを見ながら寝るもんだから」
「それならいいけど、いびきがやたらに大きい」
「どんないびきだ?」チュー助が聞きました。
「おばあさんとは思えないほど大きな音だ」
「ひょっとして脳卒中を起こしているかもしれない。これは緊急を要するぞ」チュー助が言いました。「それなら、様子を見よう」チュー吉はすぐに決めました。
みんなで駆けつけると、確かにテレビの音が大きいのに、その音に負けないほど大きないびきが聞こえます。そして、おばあさんがコタツの上に頭を乗せて動こうとしません。
誰が見ても異常な事態です。ゆっくり作戦を練る時間がありません。
「チュー助、どうしよう」チュー吉は、チュー助に聞きました。
「救急車を呼んだほうがいい」チュー助は即答しました。
「よし、電話をしよう」ちょうどコタツの上に電話の子機がありました。チュー吉は、それに体当たりをして、ケースからはずしました。
もちろん電話をかけるのははじめてですが、人間がすることをおぼえていたので、その真似をしたのです。そして、「誰かぼくの背中に乗れ」と叫びました。チュー作がチュー吉の背中に飛びのると、チュー吉は、「通話」、1、1、9のボタンの上に顔から思いっきり飛びこみました。すぐに受話器から声が聞こえました。チュー吉は、「チュー、チュー」と返事をしようとしましたが、「ネズミのいたずらか」と思われかもしれないので、それはやめました。
そして、「おばあさんの顔を齧れ」、「耳元で鳴け」という指示を出してから、また、「消去」、「通話」、1、1、9のボタンの上に飛びこみました。また声が聞こえてきました。
みんなは、おばあさんの顔を齧ったり、耳元で鳴きつづけたりをくりかえしました。
10分近くしてから、救急車の音が聞こえてきました。
「おばあさん、救急車が来たぞ。もう少しがんばれ」チュー吉は叫びました。
しばらくすると、玄関を叩く音がします。「もう大丈夫だ。お礼に食べものぐらいはくれるだろう」チュー吉たちは、そう言いながら引きあげました。