新しい仲間
今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(52)
「新しい仲間」
そのチンパンジーはお腹がぺこぺこで、もう歩くことができませんでした。
なにしろ、もう10日も食べていなかったからです。森があれば、そこで食べものを探そうとするのですが、すぐに誰かが出てきて、「見かけない顔だな。ここに入るな」と追いだされるのです。また、何とか入っても、見つかると追いだされてしまいます。
どうして、こうなったのでしょうか?チンパンジーは仲間と集団生活をしていますが、そのチンパンジーは、グループから追いだされてしまったのです。
確かに、子供のときから少し横着な性格で、毎日のように大人から叱られました。
あるとき、父親が、そのチンパンジーを呼んで、「ボスがお前を追いだせと決めた。それで、ここから出ていってくれないか。ボスが変われば、戻れるように頼んでみるから」と言いました。母や兄、妹も心配そうに見ていました。
そのチンパンジーは、「同じさぼり仲間がいるのに、どうしてぼくだけが?」と思いましたが、父親は、「すまんが、わしらも年を取っていくので、仲間に助けてもらわないと、生きていけない」と悲しそうに言うものですから、何も言いませんでした。
その日の夕方、家族に見送られながら、生まれ育った場所を出ていくことになったのです。最初は、食べものには不自由しなかったのですが、どういう理由かだんだんなくなったのです。それで、森の動物は、よそ者に取られないように警戒をはじめたようです。
チンパンジーは岩陰にもたれてぐったりしていました。満天の星がきらきら輝いているのを見ながら、「ここで死ぬんだな」と思いました。すると、涙で星が滲んできて、大きな固まりになってきました。
そのまま気を失っていましたが、体を揺すられたように思い、目を開けました。目の前に、大きな星が二つ光っています。
もう星の近くに来たのだと思っていると、「どうしたんだ?」という声が聞こえました。
よく見るとライオンが顔を覗きこんでいます。
チンパンジーは、「ぼくは死んだんだよ。きみもか?」と答えました。
「ばか言え。死んだやつがどうしてしゃべるんだ?」と笑いました。
チンパンジーは、まだ状況がわかりませんでしたが、今までのことを話しました。
「要するに腹がへっているんだな。ここで待っていろ」ライオンは、そういうと、どこかへ行きました。
「あいつに食べられてしまうかもしれないから、すぐに逃げよう」と考えましたが、「しかし、どうしてわざわざどこかへ行くんだ」と考えなおしました。それに、もう動くことができませんでしたので、じっと待っていました。
ようやく、ライオンが帰ってきました。バナナや木の実、柔らかい葉っぱなどをくわえています。
「きみはあまり肉は食べないんだろ。それに、腹がへっているときは、消化が悪いものはやめたほうがいいものな」そういって、チンパンジーの前に食べものを置きました。
チンパンジーは涙声でお礼を言いました。「ありがとう。でも、きみら食べないものを、こんな夜中によく探してくれたな」
「きみが弱っていたから急いだけど、慣れていないから時間がかかった」と笑顔で答えました。
チンパンジーは、ようやく元気になり、近くの森でライオンといっしょに暮らすようになりました。誰もライオンに文句を言わなかったからです。
あるとき、ライオンが、平原を歩いているとき、大きな穴に落ちました。夜になっても帰らないので、チンパンジーが探しにいって見つけました。
穴は、草に隠れていたのでわからなかったですが、声が聞こえたのです。しかも、曲がっているようで、上からはライオンの姿が見えません。
そこに、ゾウが通りかかりました。事情を聞くと、「よし、木をもってきてやる」と言いました。
鼻に巻いて大きな木をもってきたので、枝を払い、穴に差しこみましたが、届きそうにありません。
困っていると、今度はキリンが来ました。事情を聞くと「木のツルのほうがいい」と言うが早いか、どこかに行き、長いツルを引っぱりながら帰ってきました。
ゾウが、ツルをくわえ、穴に投げこみました。そして、そのツルにチンパンジーがつかまり、下へ降りていきました。
ようやくライオンを見つけましたが、そのツルにつかまってあがることができません。どうやら、前足を痛めているようです、
それから、ゾウ、キリンがツルを集め、チンパンジーと、新しくやってきたシマウマがライオンを乗せる籠を編みました。そして、ライオンは無事に助かりました。
しばらくライオンは動けないので、みんなで食べものを集めました。
ようやく、傷も癒え、チンパンジーが作った酒でお祝いをしました。チンパンジーは、みんなにお礼を言い、自分のことを話しました。
すると、みんなも自己紹介しました。すると、みんなグループから追放されたものばかりでした。仲間を殺したり、よその奥さんを取ろうとしたり、また、仲間を裏切ったりしたようです。みんなのしたことは悪いことですが、今ではたいへん後悔しています。
それに、大人になるための時間は、それぞれちがいますので、悪いことしても、生まれつきの悪人と決めつけるのはやめたほうがいいようです。
なぜなら、別々の動物が、新しい仲間をいたわりながら、楽しく暮らしていますから。