シーラじいさん見聞録
報告書そのものには載っていなかったが、議論の内容から、そこには、温暖化という異常現象が起きているはまちがいない。過去100年を調べてみると、大気や海洋の平均気温が上昇していること。それに伴い、氷河や永久凍土や氷河が溶けだし、海面水位が上昇しているとなっているようだ。
そして、このまま温暖化が進めば、地球環境が激変して、ニンゲンに大きな影響が出てくるという予測をしている。
温暖化の原因は、化石燃料によって、大気に二酸化炭素(CO2)量が増えたことと指摘されているが、海洋への影響も必至のようだ。
大気の二酸化炭素を吸収にしている海洋が、その限度を超えると、酸性化が起こり、炭酸カルシウムができなくなる環境になるというのだ。そうなれば、プランクトンやサンゴなども絶滅の恐れが出てくる。
議論の中心は、なぜ二酸化炭素が増えたか、そもそも温暖化に向っているのかという意見からはじまった。
IPCCを批判する科学者には、温暖化はまちがいないであろうが、その原因は太陽の活動が主因であるという意見もある。
また、これは、化石燃料は何十年後かには枯渇していく。それを独り占めしたがっている国が、国連などを使って仕掛けた陰謀であるという説もあるようだ。
アル・ゴアの「不都合な真実」も、そのプロパガンダだというのである。
シーラじいさんは、そこまで読んで、ニンゲンの叡智はどの生物よりもすばらしいが、わしらと同じように、憎悪や嫉妬など、自分でも手に負えなくなるものを持っている。
そこに気をつけて判断しなければならないと思った。
ただ、それが化石燃料のせいか、単なる自然現象のせいか知らないが、わしらが住んでいる海に影響が出ているようだ。特に浅い海に。
それが、海にいる生き物の四分の三以上が絶滅した、4億年前のオルドビス紀、デボン紀のようなことが起きているのなら、それは仕方がない。神が、自ら陸や海を動かしたからだ。
そういうことはニンゲンから学んだが、ただニンゲンは新参者なのであわてふためいているだけかもしれない。
ただ、その議論に参加している科学者全員、サンゴ礁については心配してくれている。
そうなると、また海にいる者の大勢は消えるだろう。
それが災厄の正体なのか。それを授業で教えようと決めた。
そのときベテルギウスの顔が浮かんだ。母親には、みんなのためにがんばりたいといっていたそうじゃ。いつも目をきらきらさせながらわしの話を聞き、あの戦いにも懸命に取り組んだ。
このことを教えたら、どう言うだろうか。
「シーラじいさん、これは黙っておられませんよ。ぼくは、ニンゲンとも戦いますよ」
あいつは、ニンゲンに人気があるドン・キホーテのように、後先考えずに突進するところがある。しかし、大人になれば、「海の中の海」にとって、かけがえのない存在になっていくはずじゃ。
そう思うと、無性に不憫になった。なんとかして助けてやりたい。
やはり、あそこに行かなくてはなるまいな。
ここを出ていった者に、あの城や戦いをしゃべったのじゃろ。そして、みんなで、そこへ行こうとなったのか。
シーラじいさんは、すぐに改革委員会のリーダーを探して、自分の思いを話した。
「また、みんなに迷惑をかけるが許してくれ。できるだけ早く帰ってきて、授業を始めるから」
リーダーは、シーラじいさんを残して、他の者に行かすべきか考えたか、「海の中の海」であのような戦略を考えられる者はいないことはわかっていたので認めざるをえなかった。「わかりました。ただし、一人ではだめです。オリオンから聞いたのですが、ものすごい数の兵隊がいるそうじゃないですか。
しかもあいつらが捕まっているのなら、そのボスと直談判をしなければならないですから」
リーダーは、シーラじいさんに、改革委員会の二人とオリオンをつけることにした。
すぐに二人とオリオンを呼び、事情を説明した。そして、すぐに救出に向った。
途中、リゲルのいるところに行った。
今までの捜索の状況を話した。探すべきところは全部探したが、行方はまったくわからないとのことだった。
そして、今日もベテルギウスの家族がいるところにいきますと言ったが、シーラじいさんは、リゲルに、自分たちに動向するように言った。
リゲルは、オリオンに、「しっかりやろうぜ」と合図を送った。
二日ほどして城が望める場所に着いた。改革委員会の二人の委員は、その大きさに驚いたようだった。
「よし、まず下に行こう。それから、ベテルギウスを探すぞ」と、シーラじいさんは、振りかえって言った。
みんなはうなずいた。そして、小さな岩に隠れながら進んだ。
前のことがあるから、警戒が厳しくなっているかもしれないからだ。
しかし、兵隊と思われるものには会わなかった。
城の下に着くと、シーラじいさんは、「手分けしてベテルギウスたちを探せ。兵隊が固まっているところは特に注意深く見ろ。穴に閉じ込められているかもしれんのでな」
4人はすぐに出かけた。
4人は、交互に帰ってきて報告した。作業は以前のように行われているようだ。しかし、それ以外のところで兵隊が集っているところはない。ただ、ボスがいるところ以外には。
ボスがいるところは、リゲルやオリオンの話では、以前より兵隊が集っているようだった。
ボスは、ぜひ話がしたいと言っていた。リーダーが言っていたように、直談判しかあるまいと、シーラじいさんは上に向った。リゲルたちも護衛についていった。
そのとき、影がすっと走った。