シーラじいさん見聞録

   

リゲルとベテルギウスも、すでにその場所を特定していたので、一気に上に向った。
やはり岩にぶつかる作業とはちがうような動きだ。あちこちから動きが一点に集っているように思える。
しばらく行くと、その場所が見えるようになってきた。やはり大勢の者が激しく動いている。そして、遠くからもどんどん集ってくる。
さらに近づくと、「いたぞ」、「逃がすな」という声も聞えだした。
「よし、行くぞ。ベテルギウスは右から来る兵隊、オリオンは左から来る兵隊を蹴ちらせ。おれは、あの固まりを攻める」リゲルは指示を出した。
二人は、「了解」と答えるやいなや、すぐに自分の担当場所に向った。
そして、加勢に向う兵隊の中に突っこみ、体当たりをした。
しかし、兵隊の体はかなり大きく、ベテルギウスやオリオンより大きいものもいた。体重もそれに応じて重く、跳ねかされることもあった。
そんなときは、すぐに体を反転して、もう一度兵隊の進路を妨害した。
ベテルギウスは、訓練でおぼえた動きを見せた。体当たりをすると、すぐさま反転して、反対のほうから前に進もうとする敵を威嚇した。
敵が躊躇しているのを見るやいなや、追いつめられているオリオンを助けることも忘れなかった。
「オリオン、大丈夫か」
「ありがとう。大丈夫だ」
「これで、しばらくおとなしいだろう。すぐにリゲルを助けよう」ベテルギウスは、次の
行動を考えた。
「了解」オリオンもすぐにリゲルがいる場所に向った。
リゲルは、10頭近くいる兵隊と一人で戦っていた。
すでに穴のまわりにいた兵隊に激しい体当たりをしたので、兵隊はあわてて逃げた。
穴に入っていた兵隊も何事が起きたかと思い、頭を出したところを一気にぶつかっていった。
しかし、逃げた兵隊も、敵が一人なのを見て反攻を始めたところだった。
ベテルギウスとオリオンは、兵隊の後ろから体当たりをした。
それを見たリゲルは、穴に向って、「おまえたちを助けに来た。すぐに逃げろ」と叫んだ。
すぐに、4、5頭の魚が顔を出したかと思うと、「ありがとう」という声とともに姿を消した。
3人は、それを追いかけようとする兵隊を見のがさず、さらに激しく体当たりをした。
戦意を失った兵隊が逃げ、あたりは静まった。
事切れて仰向けになった者、激しく体当たりされて体が真っ二つになった者、苦しそうに口をぱくぱくしている者たちが残されていた。
すでに物体となって浮きあがっている者も数多く見えたから、かなりの死傷者が出たことだろう。
それを見ていたリゲルは、「撤退しよう」と叫んだ。
ベテルギウスとオリオンも、自分たちが引きおこした結果とはいえ、正視できない光景を呆然と見ていたが、リゲルの声を聞いて泳ぎだした。
3人は、だれか追ってくる者がないか確認してから、一気にその場を離れた。
3人とも黙ったまま、反対側の麓に下りて、もう一度振り返った。そして、シーラじいさんがいる洞に戻った。
シーラじいさんは、すぐに出てきて、「よく戻ってきてくれた」と笑顔で迎えた。
そして、「ペルセウスはいたか?」と聞いた。
リゲルは、ハッとした顔をした。
「兵隊よりやや小さい体の者4,5頭を逃がしたのですが、わたしがうっかりして名前を確認しませんでした」と答えた。
「大勢の兵隊と戦ったようだから、それは仕方がない」シーラじいさんは、リゲルをかばった。
「ぼくが、ちゃんと確認すればよかったんだが」オリオンも申しわけなさそうに言った。
「いやいや、おまえたちはよくやった。まずは成功じゃ」
「おまえたちは、ここで休んでおれ。どこかの穴にいるような気がするので、ちょっと見てくる」
「わたしたちも行きます」リゲルは、すぐに言った。
「体は大丈夫か?」
「ちょっと痛いけど、へっちゃらです」ベテルギウスが応じた。
「それじゃ、行くぞ」4人で上に向った。
4人で手分けしながら穴を調べた。穴の前から、「ペリセウス」と小声で呼んだ。
下部に開けられた穴は、入り口は広いが、中は狭いので、シーラじいさん以外は入らなかった。もし中に敵が潜んでいたら、逃げることができないからだ。
そして、リゲルが、ある穴に向って、声をかけたとき、奥でざわっという音が聞えた。
今度は、「ペルセウスはいないか」と叫んだ。またざわっという音が起き、「はい」と
いう声が聞こえた。
「おれたちだ。さっき君たちを助けた者だ」
それを聞くと、一頭が顔を出した。顔にはまだ少年の名残りを残しているが、かなり大きな体をしている。
「大丈夫だったか?」
「さっき助けてくれた方ですか?」顔がぱっと明るくなった。
「そうだ」
「でも、どうしてぼくの名前を」
「シーラじいさんから聞いた」
「シーラじいさんをご存知なんですか?」
「今きみを探している」
「ほんとですか」
「オリオンもいるぞ」
「オリオンも」
「今呼んでくるよ」リゲルは体をひねって泳ぎさった。

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