シーラじいさん見聞録

   

シーラの前の前には、改革委員会や名前部の者が集った。
「シーラじいさん、こんなにホシがあるのに方向がわかるのですか」誰かが質問した。
「確かにむずかしいな。しかし、大きなホシがあるじゃろ。あれは一等星といわれている。
たとえば、真上に一際輝く星が見える。あれはシリウスというホシじゃ。タイヨウの次に明るい。その上にも、明るいホシがある。あれはカノープスというホシじゃ。
しかし、それだけでは方向はわからない。ホシとホシとがどんな形をしているかをおぼえるのじゃ。それを星座という。
昔から、ニンゲンはそうしてきた。ヤマにいるニンゲン、ウミにいるニンゲンは、それぞれ自分たちで名前をつけたようじゃ。
そして、星座を見て、どの方向にいけば仲間がいるか、どの方向に進めば、国に帰れるかを決めたんじゃ。
しかし、最近では、ばらばらでは困るので、88の名前を決めているということじゃが」
「ニンゲンは、どのように名前を決めたのですか」
「神話からが多い」
「神話?」
「昔から言われている言い伝えのことじゃ。
シリウスの下のほうに、二つの一等星と、もう少し小さい5つの二等星がかたまっているのが見えるか。
あれはオリオン座という星座じゃ。神話では、自分ほどの狩人はいないと思っていたので、神が怒って、『さそり』という毒をもった虫を送って殺してしまったということじゃ。
オリオン座が沈む頃になると、オリオンを殺した『さそり』が、空に出てくる」
「ほんとですか!」
「いや、それもさそり座という星座じゃが」
「先ほどいったシリウスは、おおいぬ座を形づくっている。イヌは、ニンゲンのために働く動物で、このおおいぬは、オリオンが飼っていたイヌともいわれている」
「わたしらは、イヌなど見たことありません」
「そうじゃな。だから、ニンゲンが決めたこととおまえたちの言い伝えを組みあわせて星座の名前をつけていったらいい。しばらくすれば、誰でも星座がわかるようになって、どの方向にいけばいいかすぐにわかるようになる」
「わかりました」という声があちこちから上がった。
「シーラじいさん、神の子と言われているオリオンは、あの星座からつけられたのですか」
「そのとおり。あの子は乱暴者ではないが、元気に育てほしいと願って、わしがつけてやった。
ナポレオンというニンゲンは、あの星座が気に入って、あおれを、オリオン座といわずに、ナポレオン座という名前に変えろといったぐらいニンゲンには人気がある」
「オリオン座の横にボスのような形の星座がある」
「ああ、ふたご座じゃな。確かにボルックスとカストルをつなげば、ボスの大きな頭のように見える。しかも、大きな鰭(ひれ)もある。
近くには、オリオンだけでなく、かに座やうみへび座もある。
あれは、ふたご座ではなく、ボス座ということにしたらいい」
「ぼくたちが、名前をつけたのですね!」
「そうじゃ、おまえたちの星座じゃ。この星座は、風が気持ちのいいときと冷たいときとはちがってくる。それをおぼえること。あと、シリウスとカノープスをはさんでボス座とオリオン座の反対側にはみなみじゅうじ座という星座がある」・・・。
シーラじいさんは話しつづけた。
わたしたちは、夜の講義が行われている場所から、100メートルぐらい離れたところで、講義を聞いていた。
「これは歴史的な瞬間ですよ!いや、生物的な革命といっていい。人間が予測できないことが、われわれは、ここインド洋で目撃しているのです」
多田さんは興奮して言った。
わたしも含めて、他の人もそう思ったにちがいない。
「神は、争いをやめないニンゲンに失望して、他の者に最後の望みを託したのかもしれないね」
多田さんと同じく動物に詳しい五十嵐さんは、わたしにそうささやいた。
「最初は半信半疑だったが、こんなにうまくいくとは思わなかったなあ」と佐々木さんが冷静に言った。
「わたしもびっくりしました。みんなの声がいきいきしてきましたものね」高島さんが、それに応じた。
シーラじいさんの講義は、チキュウが動いているということを、みんなが実感するまで続いた。
最後は、名前部の担当から質問を受け、あと2,3の星座に独自の名前をつけた。
そして、カノープスをシーラボシと名づけたいという提案があった。
シーラじいさんは断ったけど、カノープスとは、水先案内人の意味があるようなので、自分たちを引っぱっていってほしいという気持からだということだったので、とりあえずはと承諾した。

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