シーラじいさん見聞録

   

「ところで、ここはどこじゃ。どうも様子がおかしいようだ」
「お気づきでしたか」
「真っ暗なのに、星が出ていないし、空を飛ぶ者もいない」
「ここは、海の中の海とでもと言うべきところです」
「海の中の海?」
「そうです。海は、元々こういう状態であったといわれています」
「確か、山の中に入ったように思うが」
「そうです。まわりは山に囲まれています」
「それで空が見えないのか」
「そうです」
「ところで、ここは病院なのか」
「病院以外の施設もあります。しかし、ボスのように大きくても、同時に治療が受けられるように、病院の区画が一番大きいのです」
「どこを見ても、オリオンのように治療を受けているようだが」
確かに海のあちこちに、船ほどの影やボートぐらいの影があり、そのまわりでは医者らしき者が忙しく動きまわっているようだった。
「ここは、誰でも治療が受けられるのか」
「いいえ、使命を受けた者だけです」
「使命?」
「それについては、ボスが説明すると思います」
「それでは、なぜオリオンが連れてこられたのじゃ」
「私も、今回の件は初めてのことです」
「オリオンは、まだ子供じゃ」
「うわさがあったからと聞いています」
「うわさ?」
「それについてもボスが説明すると思います。それでは、ご案内します」
秘書は、これ以上説明するのは、自分の権限を越えるものであると判断したのか、シーラじいさんの質問をさえぎり、自分の任務を遂行するために泳ぎだした。
しばらく進むと、壁のようになった岩があり、そこを越すと、大きな魚がゆっくり泳いでいた。かなりの数がいるようだ。
「ここは、けがや病気が治った者がリハビリをする場所です」
「リハビリが終ればどうするのじゃ」
「大きな傷害がなければ、また任務に復帰します」
「傷害が重ければ?」
「自分の国に戻ります」
シーラじいさんは、海の中の海について、どうも理解できなかった。
さらに進むと、大きな魚のまわりに、何十匹もの魚が集まっているのが見えた。
体をつついたり、大きく開けた口の中で動いていた。
「ここでは、皮膚や歯の治療をしています」患者は多そうだ。
そこを過ぎると、魚が激しく動いていた。サメやシャチのような魚だ。
近くには、大きなマグロやウミガメやエイのような者もいた。
「ここは訓練をする場所です」
「訓練?」
「使命を果たすためには、戦わなければならないときがあります。その準備をしているのです」
ちょうど訓練が始まったようだ。マグロのような魚が、10匹ずつ2つのグループになって、向かいあっていた。その間に教官のような魚がいて、戦術を教えていた。
「今日は、背後に壁がある場合を想定して訓練をする」
みんなが皮膚や歯を治療する場所との境にある岩の近くに移動した。
「もし壁に追いつめられても、決してあせるな。もし1人の者が弱気を出して逃げると、相手の分断作戦の思う壺にはまり、全員がやられてしまう。
相手の動きをよく見て、攻めてきたと思うやいなや、全員で敵の隙間を狙って後ろに回れ。
そうすれば、形勢は、一気に逆転する。そして、すばやく相手の上と下から攻めることを忘れるな」
「わかりました」全員がうなずいた。
実践形式の訓練が始まった。相当訓練を受けた者ばかりだった。逃げる側が、壁に突きあたるやいなや、すぐさま敵に向い、攻撃に備えた。
そして、追いつめたと思い、漫然と攻めてくる敵の上下左右から、ばらばらに背後に回った。今度は、10匹が一つとなり、敵に体当たりしていった。
「よし、そうだ。今度は反対になって訓練をせよ」
また激しい動きを見せて、訓練生たちはぶつかりあった、
ウミガメやエイも、それぞれの仲間の教官がいて、指導していた。
ウミガメは、どのように上から敵に襲いかかるかという訓練らしかった。
また、エイは、アカエイらしく、背びれを敵に向ける訓練をしていた。これは、背びれが毒針になっているので、それで敵を刺し、身動きできないようにするのだろう。
シーラじいさんは、自分も兵士だったが、本来食うか食われるかの関係の者が、何かの使命のために、いっしょに黙々と訓練を受けているのを呆然と見ていた。
これだけの訓練を受けて果たす使命とは何だろうか。
海を自分たちのものにするという野望なのか。
それなら、オリオンを、その兵士として育てて、悪の手先にしようとしているのか。
そして、驚くほど大きいといわれるボスとは何者か。
秘書は、次へどうぞと言って前に進んだ。
しばらく行くと、声高に叫ぶ声が聞こえてきた。

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