シーラじいさん見聞録

   

5頭のクジラとオリオンの友だちのイルカはいったん北極海に戻った。
そこで、仲間と打ち合わせをして、大西洋を南下してミラを探すことにした。
シーラじいさんはカモメにそのことを言った。
「わかりました。今、ミラを探している仲間に伝えます。クジラたちのサポートをするように仲間を集めます」
「すまないな。オリオンたちのほうのこともあるのに」
「いや、いや。地球上に仲間がいますから。どこに、何があってもすぐに飛んでいけます。しかし、ミラのことがいまだわからないのはおれたちの責任です」と謝った。
「そんなことはない。深い海で何かあったのじゃろと思う。気になさらんように」
「ありがとうございます。ところで、もしクラーケンが動きだしたらどうしましょうか?」
「わしに言ってくだされ。ベラがすぐに北極海に行って向こうのクジラを集めることにします」
「わかりました。それじゃ、おれたちも準備にかかります」カモメは仲間とともに飛んでいった。
「ベラや。今そう言ったが、なんとか頼むぞ」
「シーラじいさん。すべてがオリオンがやろうとしているにつながっているのですから、私も全力でやります」
「頼むぞ」

アントニスたちはオリオンがインド洋に着き、すぐにリゲルたちのほうに向かっていることは知っていた。
だから、所長から連絡がないか、シーラじいさんからの手紙をカモメが運んでこないか、毎日首を長くして待っていたのだ。
「オリオンはリゲルと穴を見つけただろうか」イリアスは一日に何回も言った。
「見つけたかもしれないわ。もうすぐシーラじいさんからの手紙が来るから待っていましょうね」ミセス・ジャイロはイリアスに言いつづけた。
マイクとジョンは毎日のように所長と連絡を取りあった。マイクとジョンは海軍の、所長はカモメからの情報を知りたかったのだ。しかし、お互い新しい情報を伝えることはできなかった。

オリオンは休むことなく西に向かった。海と空の青の中をどこまでも進んだ。10日後、空が騒がしくなった。オリオンはそのまま泳いでいたが、「オリオン!」という声が響いたような気がした。
空を見あげると、何十羽というカモメが自分の上を回っている。すぐに、「オリオン、よく来てくれたな!」という声が聞こえた。
オリオンは無我夢中でジャンプした。そして、「ありがとうございます。何とか帰ってきました」と大きな声を上げた。
カモメたちはすぐそばまで下りてきた。カモメのリーダーは、「疲れただろう?」その声はインド洋から共に苦労したカモメだ。
「ようやく帰ってきました。リゲルたちは元気ですか?」
「元気だ。みんなおまえが戻ってくるのを今か今かと待っている」
「後どのくらいですか?」
「後3日だ」
「わかりました」オリオンはそれを聞くと泳ぎだした。
カモメもオリオンの気持ちがわかったので、それ以上言わずにまた高い空に戻っていった。
他のカモメがオリオンがすぐそばまで来ていることを知らせたのだろう、その後1日でリゲルたちと会うことができたのだ。
青い海と空の間で黒いものが激しく乱舞した。波が大きくはねた。
それが収まると、リゲルはオリオンに近づき、「オリオン、ごめん。穴を見つけられなかった」と言った。
「仕方がないよ。ぼくらがあの穴を見つけたときとは季節がちがうのだ。それで、星座もまるっきりちがうから、リゲルは混乱しているのだとシーラじいさんは心配していた」
「ペルセウスもそう言っていた。何とか見つけようと思ったのだが」
「シーラじいさんからは、落ち着くようにと言付かってきた」
「あのときの星座の形は覚えているが、それなら、そのときまで待つしかないのだろうか」
「いや。今は星座のことは考えないようにしよう」
「それなら?」
「ここへ来るまでもずっと考えていたが、答えが見つからない。それで、きみと話していたら、何かわかると思うんだ」
「ありがとう。海底には何度か行ったから、何かあれば聞いてくれ」
「了解」
それから、オリオンはあちこち泳ぎまわったり、少し潜ったりした。リゲルはオリオンの邪魔をしないように少し離れて見守っていた。
しばらくすると、オリオンは「みんなは?」と聞いた。リゲルは、「自分たちで潜る訓練をしているんだ。おれもかなり教えたけど、きみが来たので、自分たちで訓練をしているようだ」と答えた。
「そうか。それじゃ、そこへ行ってくる」オリオンはそちらに向かった。
しばらく行くと、確かにいくつかの黒いものが動いている。
オリオンはゆっくり近づいた。それに気づいた者が、「オリオン!」と叫んだ。

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