シーラじいさん見聞録
「いやいや。おまえがどれだけ苦労しているかはみんなが知っている。おれたちもできることはするから、何でも言ってくれ」
「ありがとうございます。これからもよろしくお願いします」
「それじゃ、行こう」
オリオンは泳ぎはじめた。3羽のカモメはオリオンが泳ぎだしたのを見て、それぞれの方向に飛びだした。すでに、分担を決めていたようだ。
オリオンは懸命に泳いだ。ときどきまわりを見た。青い海も空もどこまでも広がっていた。
無我夢中で泳いでいると、時間が止まったように感じられ、昔のことを思いだすこともあったが、すぐに自分を待っているリゲルたちを目に浮かべた。
「シーラじいさん、オリオンはマダガスカルに着いたようですね」ベラはシーラじいさんに言った。
「そうじゃ、聞いておったか」
「カモメがいつもより大きな声を出していましたから聞こえました。それで、すぐに戻ってきました」
「カモメも喜んでいた」
「もうリゲルたちがいるほうに急いでいるのでしょうね」
「そうじゃろ。マダガスカルについてもう1週間は立っているから、かなり進んでいるじゃろ」
「無事に会えたらいいですね。出会ったとしても、それからが大変でしょうが」
「それは本人たちが一番わかっておるじゃろ。リゲルは疲れきっているじゃろが、オリオンを見れば、また元気を取りもどすはずじゃ」
「そうですね。ここを乗り切れば今までの苦労が実るのですから、何とかがんばってほしいです」
「リゲルとオリオンは互いに信頼しあっているだけでなく、信頼は大きな力になることを信じている。
わしらが無理だと思うことでも、大きな力があれば実現するかもしれぬ」
「そうですね。ニンゲンが私たちを理解してくれたのも、オリオンたちの力ですものね」
「ここまでになるとはわしも思わなかった。リゲルやオリオンたちがあきらめていないかぎり、わしもできるだけのことはやるつもりだ」
そのとき、北極海のクジラ5頭と、ここでオリオンと友だちにになったイルカが来た。
ベラがオリオンたちにカモメの報告を話した。みんなは興奮しながら聞いていた。オリオンの夢が叶う時が来たのだとみんながわかっていたからだ。
「しかし、リゲルはその穴を見つけられなかったのですね?」1頭のクジラが聞いた。
「そうじゃ。ミラを含めた3人がその穴を見つけたのは3年前じゃ。そのくらいの年月では海底の様子は変わっていないから、リゲルが、早く責任を果たそうと考えるあまり、見つけることができなかったのじゃろ」
「オリオンもミラも、本来はそこまで潜ることできないのよ。それを訓練で潜ることができるようになったの」
「それはすごいことですね」
「でも、訓練を継続しないとむずかしい。しかも、二人で励ましあってできるようになった」
「それなら、今度は見つかりますね」
「ミラがいればもっといいのだけど」
「そうだ!ミラを探そうじゃないか」
「今まで、北極海を守ることだけを考えていたが、ミラを探すのが先決だ」
「でも、クラーケンが来たらどうするの?」ベラが聞いた。
「仲間が大勢いますし、それに、みんなで訓練をしてきましたの、いざというときには、北極海のクジラが全員向かっていきます」
「シーラじいさん、どうお考えですか?」
「今もカモメが探してくれているのじゃが」
「何か情報がありますか?」
「ないな」
「ぼくらは、向こう仲間と会ったら話を聞きます」
「確かにカモメに任せっきりだったな。特にオリオンのことで頭がいっぱいになったのでな」
「ミラなら必ず帰ってくるとみんな思っていましたから」ベラが言った。
「ぼくらに任せてください」
「頼もう。しかし、あなたたちは、北極海を守るという仕事を忘れないようにしてくだされ」
「わかりました。オリオンにはいろいろ教えてもらったのに、まだお返しもしていません。今こそ恩返しのときです。なあ、みんな」
「そうです。もしミラを見つけてオリオンのことを言えば、すぐにインド洋に飛んでいくぞ」
「ぼくらは潜るのが得意ですから、必ず穴を見つけますよ」
「それなら、ミラといっしょにインド洋に行こうか」
クジラたちの気持ちがだんだん高まっていった。
「いずれお願いすることになるかもしれぬが、今はミラを探してくだされ」
シーラじいさんはクジラたちに言った。