シーラじいさん見聞録

   

トラックは兵舎を出た。「オリオン、霧は晴れたぞ。これならすぐ出発だ」所長は叫んだ。
10分後,トラックは止まり、すぐに水槽は荷台から降ろされ、飛行機に乗せられた。そして、動かないように固く括られた。
エンジンはすでにかかっていた。「じゃあ、飛び立つぞ。何かあったら、すぐに言うんだよ」所長は言葉をかけた。オリオンはうなずいた。
エンジンの音はさらに大きくなり、飛行機が動きだした。所長から体を固くすると体を痛めるからなるべくリラックスするようにと言われていたので、そのようにした。
すぐに飛行機が浮きあがったような気がした。無意識に体が固まった。今離陸したのだろうかと思った。
しばらくすると、座席にいた所長が来た。「オリオン、オリオン!」という声が聞こえた。「どうした、オリオン!」
その声で、オリオンの意識が戻った。そして、「ああ、大丈夫です」と答えた。
「よかった。気圧が急激に下がったので、意識がなくなったんだね。体のほうは大丈夫かい?」
「慣れてきました」
「それなら大丈夫だ。がんばってくれよ」所長は戻っていった。
それから、2,30分おきにオリオンを見に来た。
3時間後、所長は、「飛行は順調だった。もうすぐ、マダガスカルのアッラチャートという空港に着く。インド洋のすぐそばだ」
「ありがとうございます」オリオンは疲れていたが胸が高まってくるのを覚えた。
空軍の輸送機は無事にアッラチャート空港に着いた。すぐに水槽が降ろされて、またトラックに乗せられた。
所長は、そこで待っていたイギリス海軍の中尉に、「オリオンは弱っているから、急いでくれ」と頼んだ。
「所長、ありがとうございました」オリオンはあらためて礼を言った。
「いや、よくがんばった。しかし、きみはこれからまだやらなくてはいけないことがある。幸運を祈るよ。また会おう」
「またお会いしましょう」
オリオンはインド洋に戻った。オリオンは見守っている所長にジャンプした。別れの挨拶だ。所長も何か答えたが、もう一度ジャンプして西に向かった。
しかし、動きにくいのが分かった。やはり長時間飛行機に乗ったからかもしれない。
しかも、オリオンは背びれをなくしているので、体全体で方向を決めるようにしていたから、少しの違和感でもうまく泳げないのだ、
すぐに元に戻るだろう。そう思いながら泳いだが、思うように進めない。どこかに曲がってしまうのだ。
それで、しばらくの間はとこおりまっすぐ進んでいるか確認することにした。いつものようには泳ぐことはできないが、絶対焦らないと自分に言い聞かせていたので、予想以上に進めたと思った。
そのとき、「オリオン、オリオン」という声が聞こえた。「はい」オリオンは止まって、声がする方を見上げた。カモメが3羽いる。
「来てくれたのですか!」オリオンは叫んだ。
「そうだよ。探していた。きみが飛行機に乗る時から、おれたちの仲間がリレーで連絡して、リゲルたちがいるところまで来てくれたんだ。それで、ここへ来たというわけだ」
「そうでしたか。ありがとうございます」
「ところで、体に何かあるのか?」
「おかしいですか?」
「上から見ていたが、まっすぐ進んでいない。みんなで心配していたんだ」
「そうですか。飛行機に乗ったので、体に力が入りすぎたのがまだ治っていなようです」
「やはりそうか」
「かなり慣れてきたので、もう大丈夫かなと思っているのですが」
「おまえのことだから、すぐに治るだろう」
「リゲルたちはどうしていますか」
「みんなお前を待っているよ」そして、リゲルがいかに海底の穴を見つけようとしたか話した。「おまえが来るまでに見つけたかったんだ」
「それは聞いています。ぼくも、季節で星座は変わるのはシーラじいさんから教わっていましたが忘れていました。リゲルも焦ったことでしょう」
「『オリオンが来た時に動けなくなるぞ』とみんなで説得した。それで、今は、若い者の指導に当たっている」
「ミラが早く帰ってきてくれたら」
「そうだな。もちろん、おれたちの仲間が、ミラがいなくなった海を調べているんだ。でも、まだ手がかりが見つからないようだ」
「ミラのことですから必ず帰ってくると思います。ミラがいてくれたら、どれだけ心強いかと思います」
「そうだが、ミラが間に合うかわからないぞ。リゲルたちはおまえが来れば、その穴はすぐに見つかると思っているんだから、ミラのことは考えるな」
「あっ、そうですね。そうでした。つい弱気になりました。リゲルたちと助けあって、絶対見つけます」
「その意気だ。もう何年も前に行った場所、しかも、真っ暗な場所を見つけるのはたいへんだと思う。
しかし、今を逃したら、海底にいるニンゲンは二度と戻ってくることはできないだろうと思う、生きていたらの話だが。それで、ついきついことを言ってしまった」
「いや。待たせているのに弱気になったぼくが悪いのです」

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