シーラじいさん見聞録

   

翌朝は深い霧が港を覆った。50メートル先も見えないほどだった。
まだ船の往来は少なかったが、あちこちから汽笛が聞こえてきた。衝突を避けるためにどの船も用心しているのだろう。
実際、オリオンのすぐそばに突然船があらわれることもあったので、まわりをに中止ながら進んだ。
昨日船から降ろされた場所に行くと、目の前に大きな影が霧に浮かんだ。
止まっているようだ。オリオンは近づき見上げた。人影らしきものがいくつか見えた。
所長たちにちがいない。自分が来たことをどう伝えようかと考えた。
ジャンプしてもわからないだろうから、ピュー、ピューと大きな声を出した。
「オリオン」という声が霧の中ら聞こえた。所長は気づいてくれたようだ。
オリオンは、船のすぐに近くに行った。所長も気づいた。「オリオン。すごい霧だな。すぐに晴れるだろうから、予定どおり作業を開始するよ。クレーンを降ろす」所長は、オリオンが話すのを躊躇するだろうと判断して、どんどん自分だけ話した。
オリオンは水槽に入った。所長はクレーンの上げ下げを全部自分で指示を出した。
水槽はゆっくり甲板に降ろされた。船はすぐに動きだした。所長が近づいて、「オリオン。とにかく港に着いたら、すぐにトラックに乗ってくれ。予定ではすぐに飛行機に乗ることになっているが、この霧だから、少し予定が狂うかもしれないが、きみを運ぶ作戦に変更はないからね」と早口で言った。
「所長。ありがとうございます。ぼくはどんなことになっても大丈夫ですから、無理をしないでください」
「ありがとう。とにかく、できることはするから」
船は港に着いた。すぐにトラックが横づけにされた、オリオンが入った水槽はクレーンで吊りあげられて、トラックに乗った。すぐにトラックは出発した。所長は横に乗ってくれた。もしものときの備えてのことだった。
「オリオン、それじゃ空港に行くよ。予定ではすぐに飛行機に乗るが、陸地でもひどい霧だから、少し待つことになるかもしれないな」所長は同じ話をした。。
「そうですね。しかし、昼になれば晴れるでしょう」
「そうだと思う」
3時間ほどかかったが、ようやく陸軍の空港に着いた。しかし、トラックは兵舎に向かった。
すぐに一人の兵士が走ってきて、所長に何か言った。「やはりまだ予定が立たないようだな。様子を見てくるからここで待っていてくれないか」所長は兵士の後を追って出ていった。
ずっと空からおいかけてきているカモメが兵舎に入ってきた、「何かあったのか。所長は急いでいたな」
「霧が深いので、飛行機が飛べないようですね。すぐに晴れるとは思いますが」
「飛行機は不便なものだなあ。シーラじいさんに聞いたことがあるけど、ときどき落ちるんだってな」
「そうです。ぼくは、何度か落ちるのを見ています。今は戦争状態ですから、落としあいもします」
「要するに殺し合いだろう」
そのとき、「所長が来たぜ」別のカモメが入ってき叫んだ。
「それじゃ、またな」
「所長はあなたたちのことは知っていますよ」
「いや。またの機会にするよ。今はおまえのことで頭がいっぱいだろうから、おれたちは失礼するよ。でも、ずっと様子を見ているから」そう言うと、2羽のカモメは出ていった。
息を切らして戻ってきた所長は、「急がしてきたが、まだ状況を見ているようだ。ただ、こんな天候なのできみに何かあるといけないからぼくが同乗することを認めさせたよ」所長は得意げに言った。
「そうですか。ついてきていただけるのですか」
「そうだ。民間人が乗ることは禁止されているが特別許可が出た。きみがインド洋に入るのを見届けるよ」
「ありがとうございます」
「オリオン、飛行機は初めてか」
「初めてです」
「そうか。特に空軍の飛行機は乗り心地が悪い。ぼくも乗ったことがないが、みんなそう言っている」
「でも、そう長く乗らないのでしょう?」
「5,6時間かな」
「耐えます」

「お互いがんばろう。ぼくもずっときみのそばにいるから」
所長は、オリオンが入っている水槽の調整を続け、時間がれば、外の様子を見に行った。
1時間ほどすると、一人の兵士が入ってきて、「出発の準備にかかります」と報告した。
「よし、わかった。頼む」所長は答えた。兵士は運転席に乗った。
「オリオン、行こう」
「わかりました。行きましょう」

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