シーラじいさん見聞録
「船首が西に向いていたから多分ベンの側だろう」カモメが言った。
「しかし、ベンとオリオンが乗っている船ではないでしょうね」リゲルは心配そうに聞いた。
「敵船に一番近くにいたから、多分ちがうだろう。ベンの船はかなり遅く来たようだから」
「わかりました」
「とにかく、新しい情報があればすぐに戻ってくる」カモメはまた引き返した。
ミラが言った。「それなら、ぼくが見てこようか」
「いや、今は混乱しているだろうから危険だ。もう少し待とう」
1時間ほどしてカモメが戻ってきた。「小競り合いは収まっている。10隻ほどいた敵の船は離れた。沈んだ場所に僚船が集まってきている。大きな船も向かっているそうだ」
「ここはかなり深い。そう簡単には見つけられないだろう。調査が始まる前に見てくる」
「それがいいかもしれない。しかし、センスイカンなどが来ているはずだ。用心して行ってくれ」リゲルは、ベンとオリオンのことを早く知りたいというみんなの気持ちを選んだ。
ミラはしばらく進んでから一気に潜り、海底をめざした。その間手掛かりはない。
しかし、信号のような音を感じるようになった。それがどこから出ているのか探した。
何か沈んでいる。斜めに傾いているように感じる。近づくと、あちこちから泡が出ている。これだ。マイクはベンやオリオンの船でないことを祈りながら船のまわりを回った。
船体に近づくと、「4291」という数字が書いてあるのをどうにか判読した。ミラは数字だけは分かるようになっていたのだ。
すぐにシーラじいさんたちがいる場所に戻り様子を話した。
そこに、ベンとオリオンが乗っていた船を見張っていたカモメが連れてこられていた。
そのカモメはここで仲間になったが、若くて優秀だったので、ベンの船を見張るチームの一員に抜擢されていた。
ベンの船がUターンしたとき、もうすぐ北極海だったので様子を見るために、仲間と先にそちらに向かったというのだ。
「申しわけありませんでした」と謝ったが、シーラじいさんは、「気にすることはありません。これは突然起きたことであななたちの責任じゃありません」と慰めた。
しかし、「4291」という船にベンやオリオンが乗っていたかどうかわからないと言う。
「それじゃ、どうしたらいいですか」リゲルが聞いた。
「テレビや新聞で報道されるのなら、詳細は分かるはずじゃ」
その晩から、カモメは全員、新聞を集めるために飛ぶことにした。そこはアイルランドかイギリス北部になるとシーラじいさんが教えた。
2,3の新聞を集めてきたので、シーラじいさんとベラが読んだが、そのことはどこにも載っていなかった。次の日の新聞にもなかった。
「どうしてでしょうか?」みんな不思議に思った。
「何か隠したい理由があるのじゃろ。一方的に攻撃されたためか、世論が好戦的になることを防ぐためか」
「これがさらに核兵器を使うための口実にならないでしょうか」
「ニンゲンもそうならないように努力していると思う」シーラじいさんはみんなの不安を取りのぞいた。
「ベンとオリオンが乗っていないことを祈るしかないのか」
シーラじいさんは、マイクとアントニスに、電報のような短い手紙を書いてカモメに渡してくれるように頼んだ。
「彼らを見つけるのは並大抵ではないと思いますが、もし見つけたらそれを渡してほしい。ただ決して無理をなさらぬように」と念を押した。
インド洋から苦労を共にしてきているカモメは、リゲルたちの気持が痛いほどわかっていたし、若いカモメが油断しなければこんなことはならなかったと後悔していので、どんなことがあっても、別々の行動している二人のどちらかでも見つけたいと心に誓った。
アントニスたちは、ようやくキールからフェリーに乗ってスエーデンのヨーテボリに着くことができた。みんな体力の限界に近づきつつあったが、ここはスカンジナビア半島だ。もう少しでトロムソに行くことができる。
アントニスたちは必死で乗り物やルートを探した。しかし、飛行機が飛んでいないので、鉄道やバス、車を使っても1週間近くかかるようだ。
オリオンはすでにトロムソ大学の海洋研究所に着いているはずだ。しかし、どうして、ベンから連絡を受けたマイクはすぐにこちらに連絡をしてくないのだろう。たとえマイクたちがまだトロムソに着いていなくてもだ。
しかし、アントニスは、民間人の自分たちは、彼らが業務を遂行中には連絡をしないことを決めていた。彼らがいらぬ誤解を受けないためだ。
しかし、たとえ遅れていてもトロムソに向かっているのまちがいないだろう。いずれ向こうに着けば、マイクとジョンだけでなく、ベンとも会うことができるかもしれない。とにかく、トロムソはすぐそこだ。
ノルウエーは隣の国だが、交通の便が悪いので、まずスエーデンを北上することにした。
途中でノルウエーに行くことができることがわかればすぐに動く。そう決めたとき、どこかに行っていたイリアスが、「船で何回か乗り換えたら、トロムソに行けるらしいよ。それに乗ろうよ。オリオンはぼくらを待っているかもしれないから」と言った。
「でも、もう大学の研究所にいるかもしれないぜ」とジムが言った。
「それなら、ベンから連絡があるはずじゃないか」とイリアスが言った。
それはみんなが不思議に思っていたことだ。イリアスもそれに気づいていたのだ。
「それなら港で聞いてみようか」アントニスが提案した。4人は港まで歩くことにした。
そのときアントニスの携帯電話が鳴った。