シーラじいさん見聞録

   

友だちは意味が分からなかった。
「ほら来たぞ」ペルセウスはそう言って、「こちらに来てください」と叫んだ。
どこからか2羽のカモメが近づいてきて、二人にの前に止まった。「大丈夫です。ぼくの友だちです」
それから、カモメが何事かを話し、ペルセウスも答えた。
少し話が落ちついたとき、「きみすごいな。カモメと話ができるのか」と友だちが言った。「そうだよ。最初はまったくわからなかったけど、仲間になれば、喜びや悲しみが同じになるだろう、そうしたら、だんだんわかってきた。今でも、細かいことはわからないが、心の動きはよくわかるんだ」
友だちはうなずいた。
「シーラじいさんやオリオンがニンゲンの言葉をわかるのは、ニンゲンを仲間と思っているからだろうが、ただ、相当の訓練がいる。それは、ぼくにはできないから、オリオンに聞くことにしているが」
「そうか。だから、オリオンをどうしても助けたいんだな。ところで、カモメは、何を言っているんだ?」
「そうそう。シーラじいさんやリゲルたちは無事だ。しかし、仲間が一人殺された。元気な子だったが、それがあだになったようだ。
それから、アントニスからの手紙によれば、研究所のある場所にオリオンがいる可能性があるので、カモメと小鳥に、そこを調べてもらってほしいとのことだ」
「アントニス?」
「仲間のニンゲンだ」
「ニンゲン!ニンゲンはおれたちの敵じゃないか」
「敵ではあるが、仲間もいるということだ」
カモメは、早口で何か言ったかと思うと、すぐに飛びたった。
「オリオンは地下室に閉じこめられているらしいが、そこを調べるためには小さな穴しかなく、仲間になった小さな鳥に入ってもらうしかない。それで、すぐ行かなければならないと」
「仲間は助けあわなければならないんだな」
「自分が役に立てればうれしいじゃないか」

夜遅く、カモメ2羽と小鳥3羽は、いつもの枝ではなく、研究所の裏の塀に止まった。
「あそこに少し出っぱったものがあるだろう?あれから入ってくれないか」カモメは小さな声で言った。
「わかりました」3羽の小鳥は、中に下りてから影の中を歩いて進んだ。小さいので感知されることはないだろうが、カメラに映ることがあるからだ。
近づくとゴッーという音が大きくなった。3羽は穴の中に入った。音だけでなく、強い風が吹きだしていた。奥に行こうとしたが、前に進めない。そのまま外に放りだされた。
塀に戻ると、「無理です。風が強いのでふんばれません」
「そうか。何か方法を考えてくれないか」
「わかりました」カモメと小鳥はそこを離れた。
そして、小鳥はいつもの枝に集まった。「あれは無理じゃないか」、「確かにあんなに強い風のときは飛ぶことはないからなあ」、「風が止むのを見計らって進めないのか」、「温度調節とやらをしているので止むことはないそうだ」議論は、監視をしながらもずっと続いた。
誰かが、「それなら、足に何かつけたらどうか?枝に止まっているとき、足が離れないことがあるだろう?」、「なるほど、気が出ているものだな。確かにふんばれるだろうが、足を前に出すことができるか」、「ちょうどそこにあるから試してみよう」
3羽の小鳥は、それに足を置いてみた。確かに歩きにく。しかし、つけすぎると、今度は足が抜けない。お互いに取りあいながら、ちょうどの量を研究した。
少し風が吹いてきたので実験ができた。「あそこの風はこんなもんじゃないけど、とにかくやってみよう」
3羽は、換気孔に着いた。風は相変わらず強く吹いていたが、思いきって中に入った。
しかし、うまく進めない。そこで、一列になって進むことにした。誰かが風よけになるのだ。ようやく、暗闇の中を少しずつ進むことができた。そして、先頭が疲れたら交代することにした。
やがて少し明るくなった。「着いたぞ!」3羽は急いだ。下から光が見えた。
しかし、小鳥でも通れないほどの網戸になっているので、下りることはできない。
3羽は下を見た。「あそこに誰かいるぞ」、「カモメが言っていたように背びれはない。でも、動いていない」、「死んでいるのか」
そのとき、スタッフが3,4人に入ってきた。「あれは何をしているのだろう」、「わからない。まずは、探していたものがいたということを早く報告しよう」
3羽は帰ることにした。今度は、風に乗ってすばやく出られた。
いつもの枝に戻ったが、カモメはいない。そこで、足についたものを互いに取りあいながら、「うまくいったじゃないか」、「ようやく役に立った」、「でも、オリオンのことが心配だ」
その時、カモメが来た。小鳥は口々にしゃべった。「それはオリオンにまちがいない。ありがとう」
「オリオンは生きているのでしょうか」
「生きている。ただ、どこかけがをしたのでニンゲンが治療をしているのだ。これを聞いたら、みんな喜ぶぞ」
「次は何をしましょうか?」
「まず報告をしてくる。これから忙しくなるぞ」カモメは飛びたった。
「おれたちも、もう少し仲間を集めておこう」小鳥たちの意気も上がった。
1羽のカモメがシーラじいさんたちの元に急いだ。もう1羽はアントニスたちがいるホテルに向かった。

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