シーラじいさん見聞録
その話を聞いてイリアスは興奮した。「ぼくが書いた本のように助けようよ」
「おまえの気持ちはわかるが無理だ。監視カメラがあるし、換気孔は小さいから、そこからオリオンを出すことは不可能だ」アントニスはイリアスに真剣に答えた。
「まずカモメや小鳥に任せてから、シーラじいさんたちと相談してからのほうがいいよ」ダニエルもやさしく言った。
「クラーケンは今も暴れている。ニンゲンは、それで忙しいから、オリオンのことを忘れているよ。ぼくは小さいからロープを垂らせば中に入れるはずだ」イリアスは自分の意見を述べつづけた。
しばらくして、ドアのチャイムが鳴った。アントニスが出ると、ミセス・ジャイロとジムだった。
アントニスはすぐに二人を入れた。「来てくれたのか」「きみらから話を聞いていたけど、居ても立ってもいられず来たわ。ジムもどうしても行きたいというから」ミセス・ジャイロは説明した。
「混乱しているときこそ、チャンスがあるからね」ジムも言った。
「イリアスもそう言っているんだ」アントニスも笑顔で答えた。
そして、電話で話していたが、今までのことをもう一度説明した。
「イリアスはすごいぞ。ぼくも同じ考えだ。ただ、忍びこむことは危険だ。
ぼくなら、小鳥やカモメから、オリオンは今連れだされている知らせが来たら、すぐに駆けつけてそのトラックを襲う。これのほうが成功の確率は高い」
アントニスとダニエルは驚いたままだった。
「ジム、あなた、何回もそれを言っているけど、ほんとに大丈夫?」ミセス・ジャイロが聞いた。
「やつらはオリオンを船に乗せることしか頭にないから、油断している。その時がチャンスなんだ」
「ジムはすごい」イリアスが感動したように言った。
「海に出てしまうとどうしようもないからな」
「そんなことができるだろうか?」アントニスも聞かざるをえなくなった。
「そこしかチャンスはない」
アントニスは黙っていた。
「それはぼくがやる。やつらをまいて、そのまま海にダイブして、オリオンを海に戻す。オリオンさえ助かったらぼくはどうなってもいい」
「ぼくも手伝うよ」イリアスが言った。
「それなら大丈夫かもしれないわ」ミセス・ジャイロもあきらめたように言った。
アントニスは、話を聞きながら、ほんとにジムがそんなことをして、失敗でもしたら、二度とオリオンを助けられないかもしれないと不安になった。そして、ジムの身にもたいへんなことが起きる。
そのとき、窓ガラスを叩く音がした。「カモメだ!」イリアスは飛んでいった。
「グッドタイミングね!」ミセス・ジャイロが叫んだ。
イリアスは窓ガラスを開け、カモメを部屋に入れた。「シーラじいさんたちは大丈夫だったんだね」と聞いた。カモメは、イリアスの気持ちがわかったようで、クークーウと鳴いた。
アントニスは手紙を読んだ。「よく見つけてくれました。この手紙が着くころには、カモメたちが、換気孔を調べているはずです。その結果についてはまた連絡します。どうぞ気をつけて」
「さあ、次はおれたちの番だ!」ジムが叫んだ。
「とにかくシーラじいさんからの手紙を待とう」アントニスはみんなの気持ちを沈めた。
ペルセウスは、船を襲うクラーケンが、空や海上から攻撃されては死んでいくのを見ながら、シーラじいさんたちが巻きこまれていないか不安になった。
カモメが来てくれたらわかるがと思い、空を見た。確かに鳥は飛んでいる。
しかし、海面近くまで降りてくるのは危険なのか豆粒のような大きさだ。向こうもぼくを探しているかもしれないと思い、なるべく静かな場所を探した。
「大丈夫だったか」という声が聞こえた。ぐるっと体の向きを変えると、最近話をするようになったが、クラーケンが来たので避難した友だちだった。
「逃げなかったのか?」
「みんなと逃げたけど、きみが心配になって戻ってきたんだ。それにしてもすごいなあ。以前は、戦っている間逃げていたので、殺されるところは見ていなかったけど、仲間が殺されても殺されてもどんどん向かっていくんだな」
「そうだろう。あれが世界中の海で起きているんだ」
「どうして勝ち目がないようなことをするんだろう?」
「ニンゲンを殺せば平和になると思っているのさ、いや、そう教えられているのだろう」
「とにかく異常だ。それをおさめようとしているきみたちはすごい」
「ありがとう」
「ところで、仲間は無事だったのか?」
「わからないけど、おれたちはこういうことには慣れているから大丈夫だ」
「もしつかまっている仲間がここに連れてこられたらどうする?」
「すぐに仲間に伝えにいく」
「そうか。ぼくの仲間も行きたいと言っていたが、きみに迷惑をかけたらいけないので、ぼくだけが来た」
「それはすまない。心強いよ」
「ぼくらにも何かできるか」
「それなら、オリオンに動きがあったら、おれはすぐに仲間に連絡に行く。その間、ここの様子を見ておいてくれないか」
「それはたやすい御用だ。でも、どうして、動きがわかるのか」
「カモメが教えてくれる」