シーラじいさん見聞録

   

「右に行け!」リゲルは叫んだ。もし誰かがはぐれても、方向さえまちがわなければ、必ず会えるからだ。
ただ、みんな恐怖とバリアで疲労困憊していたので、危険が迫ってきても、すぐに逃げることができない。
それなのに、5、6機のヘリコプターが、サーチライトで、常に海上を探している。しかも、探知する装置を備えているので、すぐ攻撃してくる。
リゲルとベラはヘリコプターに注意していた。近づいてくれば、急いで若いものを守った。
「なるべく陸地に近づいたほうがいいわ。ヘリコプターやもセンスイカンがわたしたちを見つけても、窪みでもあれば安全よ。そこで、シーラじいさんを待ちましょう」とベラが提案した。
「そうしよう。ミラと話をしてくる」リゲルはミラを探しに行った。しかし、どこにもいない。かなり泳ぎまわったが見つからない。
胸騒ぎがした。今までヘリコプターは、ずっとミラを攻撃していた。何もなければいいが。
リゲルはすぐに戻り、ベラに、「ミラがいない。みんなを陸地のほうまで連れていってくれないか」と言って、すぐに探しにいった。
ヘリコプターがどこにいるか見た。ヘリコプターは広範囲に探しまわっている。もし集まりがしたら、そこにミラがいるかも知れない。
突然、数機のヘリコプターが激しい音を立てて向きを変えた。リゲルも急いだ。先に着いたヘリコプターが攻撃をはじめている。
全速力で進んでいるとき、何か体にぶつかるものがいる。かまわず進んだが、それが何回も続いた。リゲルは、チラッと見た。カモメだ。3羽いる。
「あなたたちは!」リゲルは速度を緩め叫んだ。
「あれはミラとちがいます!」1羽が叫んだ、リゲルは止まった。
「ミラとちがうって!」
「ちがいます。クジラですが、ミラとちがいます。多分、クラーケンの一派なのでしょうが」
「そうだったか。安心しました。でも、どこに行ったのだろう?」
「ミラはヘリコプターやセンスイカンを引きつけているのですよ。わざとヘリコプターがいるところに行きましたから」
「ほんとですか。それなら、ぼくらのためにそうしてくれたのだな」
「そうです。地中海を出るときから、ずっとあなたたちの頭上にいました。しかし、あれだけヘリコプターがいたので、声をかけることができませんでした」別のカモメも言った。
「地中海を出てから、あなたたちに、ミラのことを言おうとしたのですが、あちこちでヘリコプターが攻撃していましたので、どうしようもありませんでした」
「攻撃があるたびに、ミラじゃないかと戻ったのですよ」
「しかし、全部ちがいます。よく考えたらミラはそんなに間抜けじゃないですから」
「それで、とにかくあなたたちにに話そうとしていたところです」
「ありがとう」
「みんなはどうしていますか?」
「ベラが、若いものを陸地側で休ませているはずです」
「ミラは、わたしたちが探しますから、あなたは戻ってください」
「お願いします」
「1人あなたついていきます。アントニスとイリアスが心配していますから、手紙を書いてください」
「アントニスはどこにますか?」
「この近くでです。毎日、心配して海を見ています」
「そうでしたか。それじゃ、ベラに手紙を書かせましょう」
リゲルと、1羽のカモメが戻ると、ベラは窪みを見つけていた。全員が隠れるほど広い場所だった。
ここならヘリコプターもセンスイカンも見つけにくいだろうし、見つけても攻撃できないだろう。
リゲルは、ベラに状況を説明した。すると、もうすでに手紙の準備をすませていたので、カモメに手紙を託した。

3人は、いつもの高台に行くと、人であふれていた。何かあったのだろうかと不安を感じながら、別の高台に行った。視界は悪いが、ヘリコプターの動きはよく見えた。
ブラウンは、同僚から、ジブラルタル海峡でクラーケンがまた出没したらしく、昨夜はかなり遅くまでヘリコプターが飛びまわっていたという情報を聞いていた。
しかし、今は海も静かで、ヘリコプターも、いつものように見まわっているだけだ。
とにかく、何かあればカモメが知らせてくれるはずだがと考えていた。。
そのカモメも、遠くで飛びまわっているが、ぼくらの仲間ではないカモメだ。
ダニエルは、電話で言った内容をもう一度話した。そして、「どうもおかしなことだ。緊急事態とはいえ、海洋や軍事と関係のない教授がそんなところに行くなんて。しかも、どこにいるか家族にも知らせないなんてありえないよ」
そのとき、イリアスが、「カモメが来てくれた!手紙をくわえている」と叫んだ。
見あげると、確かに、1羽のカモメが3人の頭上を回っている。こんなときは急いでいるはずだ。しかし、下りてこない。
「この人はぼくらの仲間だから、安心して」とアントニスは叫んだ。
カモメはすぐに下りてきて、口にくわえていた手紙を渡した。
ペルセウスは、ビニール袋に覆われている手紙を読んだ。「無事に地中海を出た」と書いてある。
「イリアス、みんな地中海を出たぞ!」アントニスは、イリアスに声をかけた。
イリアスも、「よかった!これで、オリオンを助けることができるぞ」と叫んだ。
ブラウンは、大小の活字を集めた手紙を見ていた。

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