シーラじいさん見聞録
ミラは、前方にあるものを感じながら進んだ。確かに網のようなものが広がり、そこに何かが括(くく)られている。それも数えきれないほどあるのがわかった。
しかし、それ以上は行かなかった。何かあれば、すばやく向きを変えることができないからだ。
二人で戻ってきて、作戦を練ることにした。「ぶらさがっているのが機雷だな」と、ペルセウスに聞いた。
「そうだ。網に触れないようにするためか、棒のようなものが出ていて、それに括られている」
「センスイカンやグンカンでも破壊するほどの威力があるそうだが、あれでクラーケンたちを阻止するつもりだろうか」
「あれに触れると爆発する。センスイカンを破壊するほど強力ではないだろうが」
「でも、どんどん殺していって、それが、ニンゲンに跳ねかえらないのか?」
「どういうことだ?」
「海でも、陸でも、弱肉強食がなくなると、動物、特にニンゲンは生きていけないと、シーラじいさんは言っていたから」
「本当か。本当なら、ニンゲンも、初めての事態だからあわてているのだろう。これも、シーラじいさんに聞かなくてはわからないが」
「そうだな。今は、あそこをどう突破するかだ。きみは、向こうに通りぬけられるのだな」
「できる。少し網に体をこするが」
「そうか」
「ミラなら、夜間ジャンプすれば、たとえ見つかっても、そのまま逃げられるだろう?」
「ぼく一人逃げても仕方がないよ。オリオンたちのことを考えなければならない」
「そうだな。それに、リゲルはけがをしているそうだから、ジャンプはできないかもしれないから」
「あの根元はどうなっている?」
「分からない。見てこようか」ペルセウスは網の側まで行き、海底を調べた。
「海底の岩には杭のようなものがあり、それに引っかけている。しかし、網はかなり硬いものでできている」
「やはりそうか。シーラじいさんの話では、戦争でも、ここは通れるようになっているそうだから、機雷を設置するのは、よほどの緊急事態とみなしているのだろう」
「それじゃ、どうしようか」
「スエズ運河の外側には、ときおりセンスイカンが様子を見にきているのだな」
「来ている」
「それでは、来ていないときに、網の根元を力ずくで、こっちへ曲げられないか。ある程度曲がれば、口でくわえて引っぱる」
「なるほど。みんなが通れるほどの穴を開けるということだ。やろう」
「しかし、気をつけてくれよ。あまり衝撃を与えると爆発するかもしれないから」
「わかった。きみがひっぱれるぐらいに曲がったら、すぐに帰ってくる」
ペルセウスは、網の外に出ると、根元をぐっと押した。しかし、曲がらない。体当たりなどすると、機雷が爆発するかもしれない。どうしようか。
ペルセウスは、もう一度、内側に戻り、一番左下の機雷を見た。機雷は、突出た棒の先に紐のようなもので括られている。これなら、噛みきれないか。
ペルセウスは、そこに、ゆっくり口を入れ、紐を歯で噛んでみた。噛めそうだ。思いっきり力を入れた。少し切れたようだ。
しかし、切ってしまうと、機雷が海底の岩にでも当たって爆発するかもしれない。
よし。ペルセウスは、もう一度力を入れて、紐を切ったかと思うと、下に落ちていく機雷の下にあわてて入った。そして、くるっと腹這いになり、ひれで、機雷を支えた。
海の底なのに、かなり重量感があった。海底に近づくと、首を回して、機雷を置く場所を探した。岩の隙間があった。そこにうまく置くことができた。
ペルセウスは、すぐにミラがいる場所に戻り、「ミラ、きみの出番だ」と言った。
ミラは、ペルセウスの話を聞いて、「きみほど勇気があるものはいないよ。今度は、ぼくに任せてくれ」と驚嘆の声で言った。
「それじゃ、脱出作戦開始!」ペルセウスの意気も高まった。
ミラはゆっくり現場に近づいた。確かに30センチぐらいの棒だけが出ている。
ペルセウスが言うように、外された機雷は岩の間にあった。
「これなら、体に触れることはない。それじゃ、やろう」ミラは、網に触れないように、ゆっくり近づいた。
ようやく棒に近づき、歯の間に入れて、ぐっと横に力を入れた。しかし、するっと抜けた。
網が揺れた。二人の心臓は激しく打った。しかし、爆発は起こらなかった。
網が静まったのを確認してから、もう一度力を入れた。今度は棒を捕まえることができた。
根元の網はぐっと持ちあがった。ミラでも通れるほどの穴が開いた。
「ミラ、すごいぞ。ぼくは、カモメに伝言してくる。きみは、このままスエズ運河を出て、最初にある島の下にいてくれないか」
「わかった。後は頼む」ミラは、そのままスエズ運河を出た。
その伝言は、しばらくして、オリオンたちに伝えられた。
「2人は、すごいことをやってくれたな」オリオンが大きな声を上げた。他のものもうなずいた。
「これで、大きな危険はなくなったのだ」シリウスが言った。
「そうだ。ニンゲンが、クラーケンを防いでいる間に急ごう」リゲルも、けがを忘れたようだった。